オミクロン株の影響で中国の経済が大きく後退している。5月16日には中国政府が4月の工業生産が2.9%減になったことを発表した。しかし、当然のことながら、この数値は正確なものだろうかとの疑いがもたれている。他のさまざまな経済指標も同様だ。はたして、中国政府が発表する官製データはどの程度正しいのか?
これまでも中国当局が発表する経済データは、そのままでは使えないとされてきた。たとえば、GDP伸び率にしても長い間、単に目標値に合わせているだけだとされていた。それが港湾の状況や輸出の伸び率などから推計したものと、当局が発表した数値との間に、それほどの齟齬がなくなったのは最近のことである。
こうした中国の「官製データ」についての問題を、繰り返し取り扱ってきたのが、英経済誌ジ・エコノミストだが、今回も5月19日号に「中国の公式な経済データはかなり悲惨なのだけれど」という、ちょっと捻ったタイトルの記事を載せている。リードが「最も派手な下落はすべてのなかでも不動産部門だ」というのは普通の視点だが、肩についているサブタイトルは「悪いデータがよい時もある」で、これが記事全体のトーンをあらわしている。
もちろん、冒頭近くで2020年の武漢ロックダウンのさい、GDPの伸び率について13.5%ものマイナスを公表したが、それが海外のメディアに、2つの疑問をもたらしたという話から始めている。「どうしてこんなに経済が悪影響を受けたのか。そして、経済が悪影響を受けているとして、官製データにどこまで反映させることが許されているのか」の2つだったという。
今回も同じような疑問が生まれるのは仕方ないことだろう。しかし、それにしても発表されたデータの多くは、中国経済がかなり被害を受けていることをストレートに表しているのだ。まず、前出の4月の工業生産が2.9%のマイナスというデータだが、前月の伸び率と比べると実に7%もの下落ということになっていて驚く。
しかし、小売の売上は1年前に比べてインフレ修正後14%もの落ち込み、ケータリング・サービスは22%の下落であり、自動車の販売は名目で30%以上の下落、上海にいたっては自動車売上が「ほぼゼロ」だというのだから、工業生産がもっと落ちていてもおかしくない。ゴールドサックスマンの推計では、もちろん工業生産の落ち込みは2020年以来の大きさだが、こうしたさまさまざまな分野の落ち込み具合からすれば、予想の数値と採用したデータの加重方法に問題があるのではないかと見ているという。
もう少し、発表された官製データを見てみよう。最大の下落は不動産部門で、住宅の売上は42%の下落、住宅着工件数は44%以上のマイナス。4月の失業率は6.1%で2020年の6.2%より少ないが、中国全土の31大都市でみると失業率は6.2%で2020年の5.7%より断然多く、こうした数値を見れば今回のオミクロン株の影響、そして当局の政治的反応は、より大都市において顕著だったことが分かる。これが今回の経済被害の異なっている点かもしれない。
不思議なことに中国政府は、こんな悲惨な状況だというのに、以前から掲げている今年のGDP成長率5.5%を修正する気がないらしい。これはいまの不動産部門の惨状が解消されなければあり得ないだろうと同誌は指摘する。先日、政府は住宅ローンの金利を4.6%から4.45%まで下げた(フィナンシャルタイムズ5月20日付)が、そもそも消費者の不動産資産に対する認識が大きく変わらなければ、それほどの効果を持つとは思えない。
もちろん、中国政府はインフラ投資を上乗せしていくだろうが、これとても4月の実績は4.3%増しに過ぎなかった。ナティクシス銀行の推計では、たとえGDP伸び率を5%に設定したとしても、18%のペースで加速しなければならないという。はたして、こんなことがいまの中国に可能なのだろうか。
けっきょくのところ、いまの官製データを信じたとすれば、今年の後半にかなりのペースで経済成長を実現しなければ目標は達成されないということだ。「もし、いまのままでそれが達成されるとすれば、GDPの数値をあれこれいじくって辻褄を合わせるしかない。それはつまらないことだ。今回の多くの官製データは中国経済の劇的な収縮を示していることは確かだ。しかし、少なくともいまの信頼性だけは(これからのことは別として)かろうじて上昇したといえる」。
民間企業の場合、会計を粉飾することを「クッキング」と呼ぶ。中国経済の事実上のシェフはいうまでもなく習近平だ。そしてまた、彼は本当の料理がけっこう好きで、腕もかなりのものだという説がある。しかし、会計のほうの料理は、いまや世界中のグルメたちが、少しの手抜きをすることも許すまいと身構えている状況にある。