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東谷暁による「事件」に対する解釈論

米国ではギャンブルが爆発的ブーム!;煽っているのは博打産業と州政府とトランプだ

アメリカ全土にギャンブル熱が急激に広がっている。2018年にスポーツ賭博にかけた金額は70億ドル程度だったが、今年は1500億ドルに近づいている。また、オンラインカジノに800億ドル投じられているが、大統領選挙のさいには数億ドルが選挙結果の賭博に流れた。もちろん、選挙賭博もアメリカでは合法化されている。いったい、この国はどうなってしまったのか。こうした現象とトランプの再選にはもちろん関係があるだろう。


経済誌ジ・エコノミスト12月5日号は、アメリカのギャンブル熱の現状を報じている。レポートが「ギャンブルがアメリカにものすごい勢いで広がっている」であり、社説には「アメリカのギャンブル・ブームは祝福されるべきで、恐れる必要はない」とのタイトルが付けられている。私はギャンブルがまったく禁止されているような社会で生きたいとは思わないが、いまのアメリカのギャンブル熱はあまりにも異常だと思う。ジ・エコノミストはこの異常な状況を恐れる必要はなく祝福せよというのだ。こちらの方も異常ではないのか。


まず、レポートのほうからいくつかの事実をひろってみよう。最近、使われるようになった言葉に「ゲーミング」があるが、これは博打や賭博の婉曲表現らしい。いまやアメリカ人の約40%がスポーツ賭博に手を出しているが、2018年までにはネバダ州を除くすべての州でそれは違法だった。アプリを使ったスポーツ賭博は、2018年には70億ドル程度だったが今年は1500億ドルに達すると見られている。

オンラインのスポーツ賭博およびオンラインカジノのプロバイダーは、2030年までにオンライン・ギャンブル全体で年間収益が600億~700億ドルに達すると予測しており、これは現在の3~4倍に相当する。従来のカジノが年間収益約850億ドルとされているが、ニューヨーク州テキサス州など新たにライセンスを検討しており、それが認可されれば、こちらのほうも収益は急伸することになると見られている。


もうひとつ、ゲーミングと呼ばれるものとは異なるとされる「博打」にも注目しておかねばならない。それは個人的な博打と化しているデイトレードであって、この分野でも株価の短期間の変化を予想する先物や、オプションの取引が急速に膨らんでいる。この取引で一発宛てるのは容易ではないが、当たれば初期投資の10倍から100倍の利益を生むことがある。また、ご存知の仮想通貨への熱狂も、トランプ次期大統領が煽っていることもあって、続いているどころか炎上した。こうした活動を合計すると、アメリカ人が博打で得る収益は2019年の4000億ドルから、2024年には7000億ドルに達することになるという。


なぜそんなに急速な変化が生まれたのだろうか。同誌が指摘しているのは2つ、ないしは3つある。1つ目が博打についての法律が大きく変わったことだ。2つ目がスマホのアプリなどにみられるテクノロジーの急速な進歩である。そして、もうひとつ、3つ目だが、新たに参入する若い裕福なギャンブラーたちは、従来のギャンブラーとは異なった習慣をもっていることだという。つまり、彼らの多くは景気がよくなるとギャンブルに参加するようになる傾向があり、ロッタリングなどのような公共ギャンブルに入れ込む貧しいギャンブラーたちのように、景気が悪くなるとギャンブルに傾斜する者たちとは行動パターンが異なっているという。


こうしたギャンブル・ブームのファクターのなかで、意外に感じられるのが法律の改正だが、「いずれにせよ、アメリカ全土の州政府は、ギャンブル解禁のメリットはコストを上回っていると考えている」。2018年に最高裁ニュージャージー州の要請を受けて、スポーツ賭博をネバダ州だけに限定する法律を破棄した。それから6年で38州とコロンビア特別区がスポーツ賭博を合法化していった。では、そのメリットとは何かといえば、ギャンブルの収益にかなり高い税金をかけることで得られる新たな州の収益なのである。

もちろん、同誌もギャンブルにマイナス面があることは認めている。ノースウエスタン大学のスコット・ベイカーたちの論文によれば、スポーツ賭博が合法化されることによって、ギャンブルする世帯は年間約720ドルのギャンブル支出を行うようになった。スポーツを好む人たちは投資よりスポーツ賭博に賭ける。つまり、掛け金1ドルにつき、投資への拠出額が1ドル弱減っていることが、彼らの研究によって明らかになったという。それだけではない。スポーツ賭博をする世帯はクレジットカード負債が増加する傾向があることも発見され、その傾向は経済的に苦しい世帯で最も強かった。

ジ・エコノミスト誌より


こうした研究は他の大学でも行われており、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のブレッド・ホレンベックと南カリフォルニア大学のポエット・ラーセンなどの共同研究によれば、スポーツ賭博をする世帯の場合には世帯が破産する確率が25%も上昇することを発見している。さらに彼らはスポーツ博打を合法化した州では、あらたに年間3万件の破産が生じており、そうした州では家庭内の暴力事件が増加していることも分かったという。こうしたジ・エコノミスト誌のレポートを引用していて、当り前じゃないかという感情が当然ながら起こってくるのだが、こうした研究はほとんど州政府の判断には影響をもっていない。

逆に州政府はますますギャンブルをむしろ奨励するような傾向すらあるように見える。「多くの州政府はギャンブルがもたらす追加収入のために、こうした悪影響を容認してきた」。たとえば、先ほども述べたように州の宝くじは富裕層よりも低所得者層に頻繁に買われる傾向がある。そして、こうした州の収益を増やすための宝くじは50州のうち45州が運営していることはよく知られた事実である。「州政府にとって最も重要な考慮事項は、最終的に州の財源にどれだけのお金が入るかということなのである」。

トランプ時代はギャンブル的バブル時代


こうしたレポートを掲載しておきながら、ジ・エコノミスト誌の社説が次のような結論で締めくくっているのは、私にはまったく理解できない。「いまのアメリカのギャンブル・ブームについては、祝福する価値がある。その理由のひとつは、いまのギャンブルは好景気のときに人気が高まるということだ。それは州政府による宝くじへの参加が不況時に増加する傾向があるのとは対照的である。しかし、もっと重要なふたつ目の理由は、いまのギャンブル・ブームが人びとの楽しみの結果であるということだ。いまアメリカ人の40%がスポーツ賭博に参加している。すべての州で合法化されれば、その割合はもっと高くなるだろう。自由は言論や政治だけでなく、自分のお金を好きなように使えるかによっても判断されるのである」。


え? ジ・エコノミスト誌は、いつから博打の胴元(ギャンブル産業および州政府)の広報誌になり下がったのだろうか。自由になるお金が多くある人がより有利な博打に手を出し、自由になるお金が少ない人が不利な博打に甘んじる。当り前ではないか。それが同誌の主張を正当化する理由になるのだろうか。いまのようなアメリカのギャンブル的なトランプ扇動国家のなかで、それに適用しようとすれば、自分たちのもてる資産と条件と感情で対応するしかないのだ。

いまの博打ブームはもうずるずると続いてきた、金融緩和的政策が生み出しただぶだぶのお金が生み出している射幸的メンタリティが形成したものだ。そのメンタリティがもはや文化となって、いまやアメリカをギャンブル帝国にしている。いちばん奇妙に思うのは、それが分かるレポートを掲載しておきながら、社説ではおぞましい現実を祝福せよといっている、ジ・エコノミスト誌の不安定な編集姿勢である。