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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ゼレンスキーはどれくらい困っているか;データで読むウクライナの現在の窮状

ウクライナでは戦争が続いているが、イスラエルハマス戦争に世界の目が集中するなかで注目度が低下している。しかも、欧米のウクライナへの支援に重大な懸念が生じている。いうまでもなくアメリカの軍事・財政支援が、米国内の政争のために追加できず、今後の見通しが不安定になっているからだ。また、ヨーロッパ諸国からの支援も、一時は上昇したものの、「戦争疲れ」が広がって積極性が失われつつある。


経済誌ジ・エコノミスト12月2日号は「アメリカの政治的麻痺がウクライナへの支援を複雑にしている」を掲載し、データを示しつつウクライナおよび同大統領の苦境を指摘している。「アメリカはかつて『民主主義の兵器庫』であることを誇ったが、いまやその偉大な兵器庫が国内の政治的対立のために干上がりつつある」ために、ウクライナへの兵器支援だけでなく、イスラエルや台湾への支援も怪しくなってきたというわけだ。

ざっといえば、海外への軍事支援のかなりの部分が、「大統領の引き出し権限」で行われてきたが、それが共和党の反対で権限の規模が縮小しているということだ。議会がこの大統領権限の積み増しを認めてくれないので、すでに支援した国から兵器の買戻しをしているが、それでも追いつかない。国防総省はいまのところ引き出し権限で50億ドルを確保しているが、その補填予算がわずか10億ドルになってしまっているという。


ウクライナ戦争が始まって以来、大統領引き出し権限でまかなってきた支援費は250億ドルにのぼり、他の予算枠組みを加えた440億ドルの約57%に相当する。この枠が消滅すればウクライナとしては命綱を切られるようなものだろう。事実、大統領権限パッケージは、この10月に3億5000万ドルだったが、11月には2億2500万ドルに低下し3カ月平均金額は2022年2月より低くなってしまった(上図:左)。

「この支援金額の低下は、どこよりも戦場に反映している」。カーネギー平和財団のマイケル・コフマンによれば、「今年の夏の間、ウクライナ軍は152ミリ砲と155ミリ砲といった大口径の弾丸を22万発から24万発も使用しているが、それがじきに8万発から9万発ていどに下落する」と見られているという。


こうしたウクライナ側での兵器供給縮小のいっぽうで、ロシアは砲弾の供給量で西側諸国を圧倒し、さらには北朝鮮からの兵器輸入で供給力を加速しつつある。ウクライナは防御的立場に立たされつつあり、「いまや問題となっているのが、新たな攻勢がかけられるかどうかではなく、いまのレベルを維持できるかどうかになってしまっている」。ロシア軍は毎日900人の戦死者を出しながら、すでに17万人の兵員の増強を発表しており、プーチンは戦争の継続について少しもひるんでいる様子はない。

今週(12月3日に始まる)におけるアメリカ議会の動きが注目されるところで、民主党上院議員たちは何とか追加の権限を大統領に与えようとしているが、共和党は「アメリカ・ファースト」を錦の御旗にしている人物が気になって、それに合わせてくれる可能性は低い。さらに、上院が通ったとしても、下院のほうの抵抗はもっと強いと思われ、親ウクライナ系の政治家たちは焦燥にかられる日々らしい。


では、ヨーロッパの同盟国はどうなのか。このところ、遅ればせながら同盟国の支援が増えたおかげで、合計するとアメリカを上回るところまで来ていた(上図:右)。しかし、これも今後は保証の限りではないという。実際、「ヨーロッパからの兵器および財政の支援は滞り始めて、2024年3月までに予定されていた100万発の弾丸すら、約束を守れないのではないかと憂慮されている」。その原因とされるのが、イスラエルハマス戦争で優先順位が変わったことで、さらには「戦争疲れ」「支援疲れ」が出てきて、財政支援も目標に到達するかが危ぶまれているという。

報道によれば、ゼレンスキーの妻がインタビューで夫の苦悩について語り、ゼレンスキー自身も反転攻勢は「期待どおりの結果を得られなかった」と発言して、その「失敗」を事実上認めている。もちろん、その理由として欧米の軍事支援が「要望した兵器の供与が受けられなかった」と付け加えることを忘れないし、「諦めない、降参する気はない」と述べてはいる。しかし、イスラエルハマス戦争が続く限り、そして、戦争遂行能力の多くを海外からの支援に頼っている限り、ウクライナは欧米による停戦の圧力に抵抗できなくなる可能性が高くなってきた。