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東谷暁による「事件」に対する解釈論

日本の生活水準を世界の中で見直す;いますべきことを地道に考えるために

日本の生活水準は世界のなかでどの程度なのか。ズバリ言って24位である。国連の発表だからいちおうは根拠があるだろう。また、日本の一人当たりGDPが20位にも入っていないことからすれば、相応の順位だということもできる。さらに、日本と順位の近い国と比較してみれば、これもなるほどと納得できることが多いのである。国連の判断が常に正しいとは限らないが、ざっと見ておくと日本の位置づけを考えるさいに役立つだろう。


経済誌ジ・エコノミスト3月13日に「どの国が生活水準で最高で、どの国が最悪なのか」が掲載されてから、同誌の記事へのアクセスが第1位を繰り返している。やはりビジネスマンも世界のなかの自国が気になるのだろう。同誌のこの記事のテーマはグラフ(後出)に見られるように、コロナ禍が蔓延したことによって、世界経済がどれほど影響を受けたか、いまどこまで回復したのかだが、提示されているデータも面白い。


この世界において生活水準の比較というものが可能かどうかを考えれば、厳密には無理だろう。なぜなら、それぞれの国の価値観が異なっているし、それぞれの国が発表しているデータが果たして正しいのかも定かでない。さらに、そもそも数値になるようなデータを発表していない国すらある。しかし、そういうことは措いて、平均寿命、教育期間、一人当たり収入などを数値化して合計し、それで順位を見ると、第1位スイス、第2ノルウェー、第3位アイスランド、第4位香港、第5位デンマークおよびスウェーデンということになる。


香港が高位なのを不自然と思う人は多いと思うが、基準となっている一人当たり収入と平均寿命が高位にあるので、たとえこの地域が大陸に弾圧されていたとしても、生活水準は高いことになるわけで、こうした意外なものを除けば、相変わらず人口が少ないが資源が豊富で経済もそこそこであれば、寿命と教育年数は上昇するので、上位は常連さんたちで占められるわけである。


日本の第24位を、いまさら不当だと騒ぐ人は多くないだろう。何でもかんでも、誰かの陰謀で日本の地位が貶められているという観念の持ち主は、相変わらず国連のデータは信用できないとか、人権についての日本への批判は正しくないとかいうかもしれないが、いちおうこの順位は、公に発表されている基本的データから引き出されているので、まずは素直に見てもバチは当たらない。

日本と同じくらいの第25位イスラエルは、日本と一人当たり収入が近接しているが、寿命と教育年がわずか低いので後塵を拝すことになった。もちろん、これはガザ地区攻撃を始める前の評価である。逆に、韓国が第19位と日本を引き離しているのは、一人当たり収入が日本を引き離し、寿命も教育年も長いのだから、当然といってよい。首をかしげたくなるのはむしろアメリカで第20位。収入は高く教育年も短くないのに、寿命がかなり短いのでこの地位に甘んじているのである。何となく小憎らしいのがドイツで第7位、収入、教育年が上位にあり、日本が勝っているのは寿命だけである。


さて、データを引用させてもらって、この記事の中心的テーマを紹介しないのは、不道徳的といえるかもしれないので、ざっと紹介しておこう。パンデミックのせいで世界の生活水準は大きく低下してしまった。その後、パンデミックが終息の兆しを見せたことから、生活水準の上昇率は元に戻りつつあるが、上昇のコースを大きく外れたので、もとのコースに戻るのは容易ではないと見られている。しかし、希望もあるという。


「2020年代の混乱のお陰で、各国の政府がいくつかの課題において協力し合えることが証明された。パンデミックのあいだ、ワクチンが開発され、大量生産されて世界に配送された。しかも、それがきわめて速いペースで行われ、最初の年だけで約200万人の生命が救われたと推計されている」


ここで生活水準のデータと、パンデミックに対する対策の評価について紹介したのは、ひたすら可能な限り、日本の現状を冷静にとらえておきたいと思うからだ。高度成長期末期の単なるバブルを日本の本来の経済だと誤認しているのは、ますます将来を過つことになるだろう。そして、ろくろく因果関係が証明されていないのに、ワクチンの弊害を一方的にあげつらって、コロナ対策がまったく有害だったかのように言い募り、多くの人たちを恐怖に陥れているような人たちは、いまの日本の底深い危機が分かっていないのだと思う。

 

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