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東谷暁による「事件」に対する解釈論

コロナ・バブルの後に来る世界;IT企業の勝者と敗者から未来をのぞく

まだまだ分からないものの、オミクロン株BA.5の感染者数は、ピークを超えて少数安定期に入ろうとしている。これから何が起こるのだろうか。すでに安定期に入ったアメリカでは、驚異的な成長を遂げた新興ビジネスが没落し、リモートワークの再検討が始まっている。では、同じことが日本でも起こるのだろうか。

 

経済誌ジ・エコノミスト9月1日号は「パンデミックにおける勝者と敗者」を掲載して、この熾烈で皮肉なビジネス戦争を振り返っている。サブタイトルに「ズーム社とその仲間はガタガタになり、ソフトウエア会社はじわじわと繁栄をものにしている」というのだから、その内容は読まなくても分かったようなものだ。同誌はブームに便乗した企業を選択した「ロックダウン狂乱インデックス」という、独自の株価インデックスを作って、その下落ぶりをグラフにしている。

The Economistより:コロナ・バブルに踊った企業は80%下落


「狂乱の時代は終わった。いまや『ロックダウン狂乱インデックス』が示しているように、ネット映画配信のネットフリックス、お洒落なバイク製造業のペルトン、株式売買アプリのロビンフッド、Eコマース・プラットフォームのショッピィ、そしてビデオ会議のズームは、平均でピークから80%も下落してしまった。ハイテク企業株の集まるナスダックが18%の下落で済んでいるのだから、その激しさが分かる」

8月22日にネットフリックスは収益が昨年より8%下がったことを発表し、またペルトンなどは前年同期に比べて30%も落ちたと発表している。他の浮ついた急上昇を見せた会社にいたっては、破綻の瀬戸際にあるようなところもある。皮肉を効かせた論調で知られるジ・エコノミストといえども、成長企業を褒めて書くことはあるのだから、いかにも趣味の悪いインデックスと分析といえるが、かならずしも「見せしめ」というわけではないらしい。

同誌が見るところ、この狂乱のブームのさなかにあって、じっくりと業績をあげるだけでなく、将来のビジネスを拡大した企業もある。たとえば、インフラ技術に関係した分野に投資した分野で、「デジタル・ペイ」(スマホ払い)はこの時期に急速に成長したが、これからも顧客をしっかりと押さえていくことが予想される。また、クラウド化を進めたネットワーク企業は、これからますます使われるようなるのは間違いない。


虚栄に振り回された企業をからかって、留飲を下げさせてくれるのかと思いきや、ハイテクバブルを乗り切った企業の手堅さを称賛して、同じくハイテクといわれ、ネット関連といわれても、目の付け所で勝つことはできるという「教訓話」に仕立て上げているような気がしないでもない。「バブルはパンデミックの終焉で破裂してしまったが、デジタル化ビジネスの太鼓は、いまも鳴り響いている」というわけだ。

経営者や投資家にとっては、ジ・エコノミストのご託宣は役立つかもしれないが、一般のビジネスマンにとっていま切実な関心を呼んでいるのは、このコロナバブルの崩壊で、これまで称揚されてきた「リモートワーク」あるいは「テレワーク」がどうなっていくかという問題である。なかには一日も早く元に戻って欲しいと思ってきた人もいれば、こんなに気持ちのよい労働環境は崩れてほしくないと考えている人もいるだろう。

Wathington Postより:いまのところ3割がリモートだ


この問題については、すでにさまざまな予測がなされてきたが、明快な理論というものはなく、結局、成り行きでかなりの部分が元の労働形態に戻り、一部の仕事についてはリモートワークが維持されるということになる。残念ながら、「これだ!」という確度の高い予想はない。ただし、だいたいの見通しは、もう見えているのではないかと思われる。少し前にワシントンポスト紙が掲載した「リモートワーク革命は、すでにアメリカを変えている」(同誌8月19日付)が注目されたが、このリポートによれば約3割がリモートに移行しているというのである。

Wathingto Postより:職種によりリモート選好は大きく異なる


もちろん、この数値は平均値であって、職種や地域によってリモートワークへの心理的な選好度も、現実の選択割合もかなり異なる。すぐに思いつくのが、たとえばパソコンを使う技術的要素の高い仕事で、この分野の人たちはもう戻りたくないと思っている人が多い。いっぽう、対人的なサービス業においては、リモートワークでは仕事にならないので、ぜひとも戻りたいと願っている。それは、同紙が掲載しているグラフを見れば歴然としている。これからの動向は、こうした現場の人たちの選好と、マネージメントをする経営陣の、擦り合わせということになっていくだろう。

日本生産性本部のリポートより:ほぼ2割がテレワーク


とはいえ、以上にあげたグラフはアメリカでのデータを元にしたもので、日本の場合は、実は、かなり違う。すでに「日本は遅れている」式の報道でも指摘されているように、日本人はアメリカ人に比べて、元に戻って欲しいと思っている人が多い。アメリカが3割の人が「このままでいい」と思っているのに対し、日本では2割くらいにとどまる。これは細かく見ていくと面白いことが多いのだが、ともかく、比較的信頼のおけるデータによるグラフを引用しておいた。アメリカと同じ基準のものではないので、単純に比較できないが、漠然としたリモートワークに対する感情は見えてくるだろう。

日本生産性本部のリポートより:今年4月にテレワーク選好がピークに


いちばん馬鹿げでいるのは、アメリカは3割もの人がリモートワークで、日本は2割だけだから、もっとリモートワークを推奨しなくてはならないと焦ることだ。これまでも何回かこのテーマでの投稿をしてきたが、たとえば、管理職というのはかなりの部分が「みんなで一緒に働きたい」と思っているが、技術的なスタッフは「うざったいことはいやだから、リモートワーク最高」と感じている。アメリカの金融関係のマネージャーは「やっぱりビジネスはチームワーク」と言うのに、ヨーロッパの同業者は「個人プレイのほうがやりやすい」というデータもある。もちろん、これらは調査を行なった機関とか、その目的が何なのかで、かなり大きな違いが出てくるので注意が必要だ・