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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ウクライナでの武器供給における「友と敵」;アメリカも日本もドイツもロシア軍に「貢献」している

いまロシア軍がウクライナ軍をかなり圧倒している。米国の武器が届いても今のロシア有利の構図は根本的には変わらないとの説すらある。では、ロシアの武器はどのように調達されているのか。すぐに頭に浮かぶのは、中国などの友好国から供給されているだろうということだが、それはどれくらいの量だろうか。そして、その輸入の方法はどのようなものだろうか。


経済誌ジ・エコノミスト4月29日号は「誰がロシアの軍需産業に供給しているのか」との記事を掲載した。短いものだがなかなか「読み応え」があるので、グラフと論旨を紹介したい。いまロシアの軍需産業はブームの真っただ中にある。ではその材料は誰が供給者かといえば、当然中国とか北朝鮮だろうと思いがちだが、実際にはもう少し複雑だ。重要軍需品の順位をいえば、中国、トルコ、EU、インド、その他の順となる。

重要軍需物品の対露輸出は、やはり中国が圧倒的である。

トルコが年によっては多いことも注目しておきたい。


しかし、精密加工に使われるコンピュータ数値制御装置で見ると、中国、トルコ、ベトナムEU、インド、米国の順になる。トータルでみたときには中国、香港、トルコ、ドイツ、韓国、インド、UAE、イタリア、日本、フランスとなって、米国や日本が武器に使われる部品を供給していることに、驚いた人もいるかもしれない。

CNCとはコンピュータ・ニューメリカル・コントロールの略で、

精密に加工するには、いまやCNC装置は必需品となっている


もちろん、西側諸国はロシアの経済に制裁を加えているわけだから、ロシアにおおっぴらに武器の部品を供給しているわけではない。これらの部品や機器類の輸出は第三国を通過して、いちおうは輸出元と輸入先が直接つながっているわけではない。しかし、これでは経済制裁などなきに等しく、買う方はもちろん、売る方も、抜け穴を必死に模索してきた結果であることは推測できる。

アメリカのブリンケン国務長官は怒りを込めて中国を「ロシア防衛産業基盤」の「最大の貢献者」と批判している。しかし、少しとはいっても、ロシアの武器の部品の供給者でもあり、そもそも、ウクライナに大量の武器を売ってきたのは、誰あろう、アメリカに他ならない。

対露輸出のトータル輸出高は中国と香港(事実上中国)でかなりの部分を占める。

注目したいのはドイツや韓国がかなり多いこと。もちろん日本も輸出している


(しかも、ウクライナへの武器輸出を加速したのはトランプ大統領の時代からで、バイデン政権は戦争が始まる前から武器を供与していた。いまや再び、米国のウクライナ支援の予算を回復させて武器を製造し、それをウクライナに届ける予定なのだから、あんまり威張れたものではないだろう。)

では、いまどのような状況だろうか。興味深いのは、ロシアの武器の精度がだんだん落ちているので、むしろ、輸出元のほうとしては、民生品を武器の部品として売ることができるようになっているとのことだ。この話はウクライナ戦争のかなり早い段階で指摘されたが、エレクトロニクス技術がレベルの低いものでよい武器には、民生品に使われる集積回路などでも事足りるのである。


もちろん、これはロシアの武器のレベルが落ちていることを意味するわけで、すでにソ連時代の武器を改造して使っている割合が、拡大しているとの指摘もある。そしてまた、最近報じられたように、ロシアとの支払い上の仲介をしていた中国の銀行が、つぎつぎと撤退するようになったという。これはアメリカによる中国への圧力あるいは駆け引きと関係しているだろう。


同誌は締め括りの部分で「西側諸国は抜け穴を潰すことができるし、自国がウクライナを支援することも可能だ」とも希望をもって指摘している。つまり、上のグラフにある部品のわずかの供給を禁止するわけである。となると、ロシアは苦しいわけだが、これまでの経緯を見直せば、このままロシアは武器が枯渇して敗北すると考える専門家は、そう多くないと思われる。