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東谷暁による「事件」に対する解釈論

中国は本当にロシアに武器を供給していない?;政府高官発言をひっくり返したバイデン大統領の思惑とは

中国はロシアにドローンを供与しており、しかも、製造も手伝っているという報道があり、また、ブリンケン米国務長官の「中国はロシアに武器を供与しようとしている」との発言があったのに、直後、バイデン大統領が「それはない」と否定した。その後も報道機関は供与を否定するものと、肯定するものが交錯している。こんな重大なことで、超大国アメリカの中枢が割れているのは何故なのだろうか。

 

米紙ワシントンポスト2月26日付は「警告のあと、米国の高官は中国がロシアに武器を供与している証拠がないと語った」を掲載して、国家安全保障担当の大統領補佐官ジェイク・サリバンとCIA長官のウイリアム・バーンズの供与否定のコメントを紹介している。まず、サリバンはCNNの番組で「ワシントンは、中国政府がロシアが(ウクライナの)街を破壊し市民を殺害する武器を供与することに対しては、強いメッセージを送り続ける」と語りつつ、「いまのところ、われわれの知る限り、中国はそこまでやっていない」と述べているという。

また、バーンズはCBSのニュース番組で、米国の情報機関は中国がロシアに武器を与えようと『考えてはいる』ものの、「われわれは、中国が最終的な決断を下したと見ていないし、また、武器が出荷されたとの証拠も得ていない」と語ったという。さらにバーンズは「習近平主席はロシア軍の弱さに驚いており、ロシアはものの数日でウクライナの首都を制圧できるものと思っていたらしい。また、ウクライナを支援する西側諸国の結束にも驚嘆しているようだ」とコメントしている。


もちろん同紙は、こうした民主党政権の「前言訂正」、正確には国務長官の発言を大統領が直後に否定するという実態に対して、共和党の政治家が「反論」していることも伝えている。下院外交委員会議長のマイケル・マッコール議員(共和党)は、2月26日、ABCのニュース番組で出演して、情報機関のレポートは、実は、中国がロシアに100機のドローン供与をしようとしているという内容だと指摘。さらには、「こうしたウクライナにおける今日の現実は、明日の台湾における現実につながる」と警告したという。加えてマッコール議員は、最近のバルーン事件についてもコメントした。

「こんな事態は父親の世代、つまり第二次世界大戦以来、まったくなかったことだった。われわれがこうした事態に直面してクビを砂の中に突っ込み(ダチョウは危機に瀕するとクビを砂に突っ込むといわれる)、現実から目をそらすなら、ロシアはロシアの国境まで迫り、中国の習近平は台湾を侵略することになるだろう」


ほぼ同じ情報を扱っているのだが、英経済紙フィナンシャルタイムズ2月27日付は「米国政府は中国のドローンがロシアのウクライナ戦を助けることを憂慮」との記事を掲載している。一見、まったく逆なのだが、使っているネタは同じだ。まず、マイケル・マッコール議員の警告を紹介して、それが部分的にはドイツ誌シュピーゲルの報道に基づいていることを指摘。その後に、CIAのバーンズのコメントを引用するという、まったく逆の「記事づくり」をしているのである。

フィナンシャル紙では、マッコールの発言をもう少し多く紹介しているので、追加しておこう。まず、マッコールによれば「北京はドローンだけでなく、他の武器も送ろうとしていた」という。さらに「来週(2月27日に始まる週)には習近平プーチンが、武器をウクライナに投入するために、会談を持つことになると思われる」という。ここらへんは、推測の域を出ないと思われるが、まったくのデマではない。


いずれにせよ、国務長官が言及していた中国のロシアへのドローン供与を、2月24日にバイデン大統領があっけらかんと否定してしまったという事態により、背後に何か起こっていたのではないかとの推測を生み出している。しかも、バイデン政権の国家安全保障顧問やCIA長官が、テレビ番組であたふた否定するという異常な鎮火騒動を見ても、さらなる疑惑が生まれて当然のことだろう。

バイデンが政府高官の重要なコメントを、あっさり否定するというのは、これが初めてではない。おそらくは、すでに中国との秘密の交渉が進んでいるといった、高いレベルでの何かがあったのだろう。それはいまの状況であれば十分にあり得ることだ。たとえば、中国が提示している停戦案について、もう少しアメリカにとって納得できるものにする交渉をしているとか、ウクライナを説得するにはどうするかとかの検討を、まがりなりにも進める気でいるなどの事情である。


そもそも、中国が供与しようと「考えている」あるいは「考えていた」ことは、十分にありえることで、その動きを米国の情報機関がつかんだとしても不思議ではない。ただし、その事実をどう米国が使うかである。もちろん、これほどのレベルになれば、もう少し様子を見なければならないが、どうもバイデンの政府高官に対する「アンダーカット(切り捨て)」「アンダーマイニング(梯子外し)」(などと欧米のマスコミは表現している)は、前もって示し合わせたものとは思えず、政府高官たちにとっても、また世界にとっても、なんとも困った超大国大統領というしかない。

 

【追記】2月28日、NHKの海外ニュース番組で、中国とベラルーシの首脳会談は、中国からベラルーシを経過してロシアに武器を供与するための会談だと示唆している。もちろん、ありうることでr、これも現在のロシアの状況をよく示す情報だといえるだろう。