HatsugenToday

東谷暁による「事件」に対する解釈論

イスラエルとハマスの交渉は難航する;その背後でのバイデン大統領の工作が醜い

イスラエルハマスの停戦交渉が始まっている。まずはハマスの代表団とカタール、エジプトとの協議だが、楽観的な見方もあれば悲観的な見方もある。何がネックになっているのかの基本的事項を改めて振り返ってから、背後で行われていたさまざまな工作、ことにアメリカの介入のやり方を見てみよう。いかにもアメリカらしいものだが、それがこの国の現実なのだと知っておくのも無駄ではない。


まずは、英経済紙フィナンシャルタイムズ5月5日付が伝える現状から紹介しよう。ハマスの代表は、5月4日、カタールにある政治オフィスから、エジプトの仲介役とともにカイロに到着した。ハマスの最高指導者イスマイル・ハニヤのアドバイザー、タヘル・アル=ノノは、エジプトおよびカタールの仲介者との会談を始めたが、ハマスとしては彼らの提案に対して「十全の真摯さと責任をもって対処している」と述べている。

とはいうものの、アル=ノノは交渉にはイスラエルガザ地区からの全面撤退と戦争の終結(これはイスラエルが拒否してきた)が含まれていることを要求すると繰り返してきた。「どのような合意になろうと、そこにはわれわれの要求、つまり完全で永久的な攻撃の終了、ガザ地区の占領地からの完全で十分な撤退、イスラエルの領土への例外のない帰還、実効的な逮捕者の交換などが盛り込まれていなければならない」と、アル=ノノは同紙に語っているという。


いっぽう、イスラエルが要求しているのは、同国の高官によれば、「これまでの要求と同じで、無条件での戦争終結への同意と人質の解放」なのだという。しかし、ここには戦争の終結がいつまで続くのか、また、人質の解放における規模についての条件が欠けている。イスラエルが行ってきた要求は、ハマスの提示とはかなり乖離し、「数百人のパレスチナ人の解放と引き換えに20人から33人の人質変換」と「数週間の停戦」を主張していると言われている。

今度こそ合意に至るという楽観論も飛び交っているが、こうした肝心な点について詰めていくには、やはり、何日はかかると見るほうが妥当だろう。それどころか、停戦の期間と解放人数について、いずれかが自分たちの主張に固執すれば、たちまち決裂に向かうという危険性すら、いまのところ存在している。


そのいっぽうで、仲介をしてきたカタールが、同国のドーハにあるハマスの政治事務所を閉鎖する方向で検討しているというニュースが報じられて世界にショックを与えた。米紙ワシントンポスト4月4日によれば、「アメリカ政府はカタールに対して、もしハマスイスラエルとの停戦について拒否の姿勢を続けるようなら、カタールからハマスを追放するようにと求めていた」というのである。

この点について、前出のフィナンシャルタイムズも後追い的に次のように述べている。「カタールハマスの政治オフィスへの援助をやめることになるかもしれないと、同国の高官は語った。この高官によれば、このシナリオによってハマスが追放された場合、カタール内のパレスチナ人たちもまた、カタールから追放されることになるのかどうかは分からないという」。アメリカは、いまだにイスラエルに武器供与をやめていないのに、仲介者であるカタールには圧力をかけて、ハマスに妥協を強要するという方法を取っていたわけである。


アメリカのバイデン大統領は、いまのイスラエルの過剰なガザ地区への報復に警告を発してみせているが、イスラエルのネタニヤフ首相は、あいかわらずラファ侵攻はかならず実行すると断言している。そう言わなければ、いまの内閣の宗教的右派から見捨てられるからである。それだけではない、彼の内閣が崩壊すれば、いま強権によって機能停止している最高裁から、汚職の罪で有罪を言い渡され、刑務所に入れられることになるといわれている。

そんな政権のトップを「ビビ(ネタニヤフの愛称)、愛しているよ」と言いながら、軍事・政治的に支えるいっぽうで、仲介を繰り返しているカタールには陰湿な圧力をかけているバイデン大統領というのは、ネガティブな意味でマキャベリアン政治家といえる。ネタニヤフと同じように権力への執着が異様に強いがゆえに、82歳で大統領になろうとくわだて、世界における不安を拡大し続ける人物なのである。