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東谷暁による「事件」に対する解釈論

イスラエル軍はハマスの3割弱を殺害したのみ;完全掃討するにはさらなる一般住民殺戮が予想される

イスラエルのネタニヤフ政権が行っているガザ地区攻撃は、ハマス全体の2割から3割を殺害したにとどまる。他の情報も併せて考えれば、この作戦はいつになったら終わるか分からないことがますます明らかになっている。ネタニヤフの党リクードを支持するイスラエル国民はすでに2割を切っているとの調査もある。この状況のなかで事実上の「共犯」をやってきたバイデン政権にも焦りが募っているというが、そもそも最初から甘く見ていたのだ。


米経済紙ウォールストリートジャーナル1月21日付は「ハマスの死者数は戦闘を終えるには少なすぎる」との記事を掲載した。「アメリカの情報機関の推計では、イスラエル軍イスラエル組織ハマスの戦闘員20%~30%を殺害したにすぎない。この死者数ではハマスを壊滅させるというイスラエル軍の目標には程遠い。ガザ地区を荒地に変貌させた100日余の攻撃によっても、ハマスには強靭性があることが分かった」。注記しておくと、これは米情報機関の推計であって、ガザ地区ハマス派機関によるデータではない。

予想はしていても、ここまでひどい状況であるとは思っていなかった人は多いだろう。もうちょっと一般住民を巻き込んだ殺戮戦を続ければ、ハマスは消滅すると示唆して戦いを持続してきたネタニヤフ首相は、いったい何を考えているのだろうか。いや、そもそもネタニヤフが政権の座にとどまろうとすれば、ただの一般住民殺戮と化した作戦を持続するしかないという指摘はかなり前からあったのだ。彼の党のリクード少数与党であり、政権を形成するにはガザ地区を廃墟にして併合したい、極右といわれる勢力と協力するしかないからだ。


では、イスラエル国民はどう思っているのだろうか。ある調査では80%がガザ地区の悲惨な状況は気にしていないとのことだったが、ともかくネタニヤフ政権にいまの作戦をやらせてはまずいという人は少なくない。ここにあるのは英経済誌フィナンシャルタイムズ1月19日付に掲載されたグラフだが、このデータも注目されている。ここにはネタニヤフのリクード(Likud)への支持がどれほど下がったかが示されている。すでに19.6%まで低下している。


このリクードは今回の戦争が始まる前から、アメリカが提示している「二国家解決」などは拒否してきた。つまり、パレスチナ国家が将来的に成立することを前提として、パレスチナ人との共存をはかるというプランなど歯牙にもかけなかったのだ。バイデン大統領はそういう勢力のトップに対して報復的なハマス攻撃を行うことを是認し、さらには報復のレベルを超えて一般住民を殺戮していく現在の作戦を、強い姿勢でやめさせなかったのだ。

そのくせ、いまも「二国家解決」を進めないイスラエルをタテマエ的に批判して見せてきたが、そこに何らの誠意も真剣な姿勢もありはしなかった。なかにはイスラエル自衛戦争をしているのだから、他の国が口を出すことではないと思い込んでいる人もいるが、この戦争はアメリカのこれまでの支援によって得た軍事力と、バイデン政権が行っている現在の支援によって行われている。したがって、この戦争の遂行についてはアメリカという国は責任があり、「二国家解決」を主張しているから道徳的に免責されるわけではないのだ。


バイデン政権の内部も分裂が大きくなり、バイデンその人にも焦燥が見られると報じられているが、もうバイデンには何もできないだろう。それはアメリカのユダヤ人が彼に圧力をかけているからではなく、「イスラエル・ロビー」と呼ばれるキリスト教徒を多く含むいくつものイスラエル支持組織が、バイデンの再選を脅かしているからだ。しかし、トランプ元大統領が共和党の大統領候補となることはほぼ確実で、しかも、バイデン対トランプの選挙になれば、バイデンには勝ち目はない。

勘違いしている人もいるが、では、トランプが再び大統領になればイスラエルに圧力をかけて戦争を停戦に持ち込むのかといえば、とんでもない。ウクライナへの支援は「24時間で」やめるかもしれないが、トランプは(サウジアラビアイスラエルとの仲介をしたことでも明らかなように、娘婿の人脈を通じて)イスラエルとの関係はきわめて深いので、よりいっそう支援を強化する可能性も予測される。

それならばバイデンは大統領選を捨てるつもりで(そもそも当選できないのだから)いまの一般住民虐殺をやめさせてはどうかと思うのだが、この人物はそんな正常な判断を国際政治においてしたことは、すくなくともこの3年余にはなかった。ひょっとすると、自分は再選できると信じ込んでいるふしもあり、焦っているのはたぶん政権の外交と軍事を担っている多少正気な高官たち、それと情報をリークした情報機関だけなのかもしれない。