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東谷暁による「事件」に対する解釈論

イスラエル軍がガザ南部ハンユニスから撤退した?;ラファ攻撃や米国の圧力との関係はどうなのか

イスラエル軍ガザ地区南部から撤退したとのニュースが流れている。これはどの程度確度の高いニュースなのか。また、その撤退はどの程度の撤退で、目的は何か。いまのところまだはっきりしていない。とりあえず、最初のロイターによる報道と日本でのニュースの扱いだけは確認して推理してみよう。


ロイター通信4月7日9時40分の配信によれば、「イスラエル軍ガザ地区南部から、1旅団だけを残して撤退していると、同軍のスポークスパーソンが述べた」と報じた。しかし、「この撤退が長い間予告していた、ガザ地区南部のラファへの攻撃を遅延することにつながるのかは、不明瞭である。ネタニヤフ首相は、この攻撃はハマスを殲滅するために必要だと述べていた」。

このロイター通信で、イスラエル軍の発表以外でも注目すべきところがあるとすれば、それはガザ地区南部の住民による、次のような証言だろう。「ガザ地区南部ハンユニスの住民は、イスラエル軍が街の中心を去って、東部のほうに戻っていくのを目撃したと述べている。ハンユニスにはイスラエル軍が、すでに数か月にわたって爆撃を続けていた」。


また、ロイター通信4月7日9時3分の配信では、ネタニヤフ首相が「国際社会からの圧力にもかかわらず、イスラエルガザ地区の支配者であるハマスの極端な要求を呑む気はない」と繰り返している。このコメントは間にエジプトが入って始めた、新ラウンドの停戦交渉についてコメントしたもので、この点はアメリカの強い圧力にもかかわらず、スタンスが変わっていない可能性が高い。もはや国内政治的にネタニヤフには選択肢はない。このニュースは前出の9時40分配信に「追加」として盛り込まれた。

時事通信4月7日19:42配信によれば、地元紙ハーレツ電子版は「軍当局者は『ガザ南部で積極的に活動している部隊はいない』と説明。南部ハンユニスでハマス掃討の戦果を挙げ『できることは達成した。必要ならいつでも作戦を行うが、とどまる必要はない』と強調した」という。これは少しおかしい。イスラエル軍ハマスの殲滅と人質の解放を目的としているが、いずれも達成していない。このハンユニスでできることはもうないとの意味なのだろうか。イスラエル軍の行動は「偽装」の可能性もある。


おそらく同じハーレツによる報道だと思われるが、日本経済新聞4月7日20:40は「イスラエルメディアは7日、イスラエル軍パレスチナ自治区ガザ南部の中心都市ハンユニスから地上部隊の大半を撤退させたと報じた。イスラム組織ハマスとの戦闘を続けるなかで、南部での諜報活動や作戦を終えたためだという」と報じている。

アメリカの圧力と今回の「撤退」がどのような関係を持っているのか、また、エジプトが試みている停戦交渉の新ラウンドとの関係もよく分からない。ここらへんはもう少し情報が必要だと思われる。前出の日経は「イスラエルはガザ最南部ラファへの地上侵攻に向けた準備を続けてきた。今回の動きがラファの作戦にどう影響を及ぼすかは不明だ」と述べているが、いまのところその通りだろう。

アメリカはいまもイスラエルに武器を供与しながら、その一方で人道的考慮をイスラエルに要求している。その「コミカル」な行為をやめないかぎり、バイデン大統領の「圧力」などなんの意味もない。今回の報道のトーンは、イスラエルが妥協をしようとしてるのではないかと思わせるものが多かったが、追い詰められたネタニヤフは自分の口で停戦とは言えないだろう。そしてまた、不利な大統領選を前にバイデンも自らの矛盾を解消することは困難ではないだろうか。

【付記:4月8日9:40】司令官のガラントがこの「撤収」は「ラファを含む次の作戦の準備だ」と発言していると報じられた。(4月8日付)これを即ラファ攻撃の準備だと報じたマスコミもあるが、どのようにでも取れる発言で、必ずしもラファ攻撃ではない可能性もある。しかし、ネタニヤフ首相はバイデン大統領の強い要請に対しても突っぱねており、事実上、自分の破滅とイスラエルにとっては大きな負債となる作戦に踏み込むのかもしれない。「いまも難民のなかにハマスがいる」と述べてイスラエルを正当化する人もいるが、それはたしかに「いる」だろう。しかし、そのハマスに戦闘継続のための命令系統が存在するのか、また、イスラエル軍に効果的な反撃ができる能力があるのかを考えれば、否定的にならざるをえない。