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東谷暁による「事件」に対する解釈論

シファ病院地下のハマス司令部はどこに行った?;いまも司令部の存在を信じるバイデン大統領

どこにいった、地下の司令部は? いまのところイスラエル軍はシファ病院の下にあると主張してきた、地下のハマス司令部を公開していない。公開したのはシファ病院のMRIセンターの荒廃した施設のなかに、「置き忘れられた」と思われる武器とパソコンだけである。アメリカのバイデン大統領はいまも地下の司令部の存在を信じているようだが、ガービー戦略広報調整官はすでに「ゴーを出したのはアメリカではない」と言い出している。


イスラエル軍が公開した7分19秒のビデオは、シファ病院のMRIセンターの内部を映し出しており、同軍報道官のジョナサン・コンリクスは雄弁に語っているが、出てくるのはカバンに無造作に入れられた小銃や、データが入ったままのラップトップ型パソコンだけである。この情報公開に対して、欧米の記者たちは、「ところで、例の巨大な地下の司令部のほうを見せてもらえませんか」と、なぜ言わないのだろうか。


BBC電子版11月16日付の「アル・シファ:イスラエル軍がガザにある中心的な病院に突入してわれわれが分かったこと」によれば、「7分のビデオでは、イスラエル軍の報道官ジョナサン・コンリクスが施設内の監視カメラを指さし、MRIスキャナーの陰に隠れたAK47ライフルを見せてくれる。しかし、もしこれ以上の公開事物がなければ、イスラエル軍の病院内での作戦で、中心的な武器の格納庫が見つかったことにはならない」。


すでに世界中のインターネット上でビデオを見た人が、このビデオの奇妙さと地下の司令部が公開されないことを不思議に思い、また、なかには憤激して批判している。もちろん、報道された内容はまだ一部にすぎず、これからどんどんすごい発見物が公開されるという可能性もないわけではないだろう。しかし、BBCは次のような現場の取材者による指摘があったことを加えている。

ハマスイスラエル軍が突入してくることを知っていた。したがって、もしハマスが病院の地下で作戦を展開していたなら、数週間の余裕があったことになるから、ガザ地区に広がるトンネルのネットワークを通じて、(ハマスの持ち物だとされるものを)運び去ってしまうことができただろう」


先に公開された、もう少し小規模なハマスが使用していた病院の内部公開では、とらわれている民間人たちが入れられていたという部屋が公開された。こんどのシファ病院ほどの規模になれば、もっと大きな部屋か地下室があって、そこに多くの拘束者たちが詰め込まれていたことになるが、その痕跡はまだ見つかっていないらしい。

英経済紙ジ・エコノミスト11月15日号の「ガザ北部での戦闘はほぼ終わった」では、この点に触れて、「本誌が刊行されるまでのところでは、状況はまだ(十分に)公開されていない。しかし、先行する報道によれば、イスラエル軍はいまだにハマスの幹部たちや人質になっている人びとを発見していない。ピークの時点では6万人のパレスチナ人がこの病院に身を寄せていたといわれるが、イスラエル軍が突入したときには、医療スタッフと患者を入れても、わずか1500人しか残っていなかった。そのほとんどは、他の住民と同じく、ガザ南部に逃れたと思われる」


それでは、シファ病院には、繰り返し報道されてきた総延長400キロのトンネルは通じていなかったのだろうか? 前出のBBCが次のようなコメントを紹介している。「シファ病院の外科医アハメド・モクハララティはBBCに対して、病院には民間人しかいなかったと語っている。(そのいっぽうで)シファ病院を含めて、ガザ地区にあるすべての建物の下には、トンネルがあるのだとも述べている」。他にも小児病院に司令部があるとの説も流れされているが、10月7日の急襲が成功したのは、司令の中心をつくらず関与者だけのネットワークで推進したからとの説が正しければ、いたずらに「中心」を探しても見つからないことになる。

すでに冒頭で触れたが、NHKテレビの報道では、アメリカのガービー戦略広報調整官が「ゴーを出したのはアメリカではない」と逃げを打っている光景が見られた。つまり、シファ病院の下には司令部があるとの確信を得たといったかもしれないが、突入してよいと言った覚えはないというわけだ。いっぽうで、バイデン大統領がしれっとした顔をして「シファ病院の下にはハマスの司令部がある」と語っている映像が流されていた。この発言の時刻は不明だが、いまも同じことを信じているとすれば、ちょっと大統領府のスタッフの質が悪すぎないだろうか。