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東谷暁による「事件」に対する解釈論

アメリカ発の戦後ガザ地区における平和維持軍構想;米軍は派遣しないプランでアラブ諸国も呆れ顔

バイデン政権は戦争が終結した後のガザ地域に、アラブ諸国が平和維持軍を派遣するよう促しているらしい。それは戦後に生まれるガザ地区の真空状態を避けるためだが、肝心の点が欠けているので、アラブ諸国からは参加はするが、条件が整わないと出来ないとの反応が返ってきている。もちろん、イスラエルのネタニヤフ政権は自国が占領する気なので、このプランに対しては激しく批判しているようだ。


アメリカは(ガザ地区の戦後についての)さまざまな計画について、アラブ諸国と議論を重ねてきた。エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)、モロッコなどがイニシアティブをとっているが、バイデン大統領はアメリカの軍隊をガザ地区に配置する気はないらしいと、西側諸国とアラブ諸国の高官たちは語っている」(フィナンシャルタイムズ5月15日付「アメリカはアラブ諸国に、ガザ地区における戦後の多国籍駐留軍に加わるよう促している」)

例によってバイデン政権のご都合主義的で半端な外交が、また露呈しているわけだが、アメリカの高官などは「アメリカはガザ地区に自国の軍靴を入れない」などと言っているらしい。エジプト、UAE、モロッコ以外のアラブ諸国からも不満と不安が表明されており、サウジ・アラビアなどは、「イスラエルとの紛争に巻き込まれたくない」として、このアイディア自体を拒否してきた。


もちろん、ネタニヤフ政権のイスラエルも、同閣内にいる宗教的右派がガザ地区だけでなくヨルダン川西岸も完全に「植民」するつもりだから賛成するわけがない。「イスラエルが合意する気がないのは明らかだ。そもそも、アメリカやアラブ諸国は、ネタニヤフ首相の戦争への意欲について、不満をならしてきたのである」。こうしてみてくると、またしてもバイデンは、選挙が気になって国内のイスラエル・ロビーに気を配り、そのいっぽうでは国際世論や米国内の若者たちに挟まれて、どっちつかずのプランをアリバイ的に打ち出しているのではないだろうか。

アメリ国務省の高官のひとりは、「ワシントンはこの地域のパートナーたちとガザ地区について議論をしてきたが、多くのアラブ諸国は条件がそろえば建設的な役割を果たしたいとの意思を示している」などと肯定的に発言している。けっこうな話に聞こえるが、ここでいう「条件がそろえば」が問題であって、アメリカが自国軍隊を派遣しないなどといっているうちは、「建設的な役割」など果たせるわけがないだろう。


念のためにイスラエルの国防相ガラントについての記述も読んでおこう。「ガラントは戦後ガザ地区に国際多国軍を配置する案それ自体には支持している。しかし、いまのイスラエルの戦争についてのスタンスすらも不安定なのだから、戦後についての計画も明瞭にはなりえないと考えているようだ」

では、アメリカがいうような「西側およびアラブ諸国」のなかの西側はどう考えているのだろうか。この西側たちもアメリカと同様で、戦後の多国籍軍による平和維持には賛成しているようだが、「自分たちの靴をこの地に入れる」ことについては二の足を踏んでいる。つまりは、米ブリンケン国務相がいうような「議論」とか「対話」など、本当は実質的に何も進んでいないのである。これは単なる大統領選挙戦対策のプロパガンダではないかとすら思えてくる。


そもそも、アメリカが主張している「二国解決」の場合のパレスチナ側の代表は、いまのパレスチナ暫定自治政府(PA)でダイジョウブなのかという点についても、多くの不安が残っている。PA側からしても、政治的実体としてやっていくにはアメリカと西側諸国の後ろ盾なしでは不可能だろう。彼らもまた次のように懸念している。「もちろん、パレスチナの代表として任務を負うつもりですが、アメリカもヨーロッパも、自分たちの軍靴をこの地に入れたくないといっているのが気になる」。

【追記:5月17日10:15】米経済紙ウォールストリートジャーナル5月16日付は「ネタニヤフはアメリカのガザ地区における戦後計画の提案を拒否した」を掲載している。イスラエルの首相は、ハマスは戦闘によって制圧されるべきで、ガザ地区の戦後を議論するのはまだ早い」ということらしい。ネタニヤフに近い筋は「ハマスがまだ存続しているのに、ハマスにとってかわる者について考えてもしょうがない。イスラエス政府はそんなものに同意するわけがない」と語っているという。