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東谷暁による「事件」に対する解釈論

日本経済は世界でどの程度の位置なのか;冷静に判断して2024年を過ごすために

日本経済は世界のなかでどの程度の位置をしめているのだろうか。昨年、名目GDPでドイツに逆転されて3位から転落したと報じられたが、では他の国との比較ではどうなのか。それを正確に知るのは難しい。とはいえ、各種のデータがあるのだから、まずはそれらを見ることから始めよう。2024年がどのようになるか、ひとつの基本的知識である。


経済誌ジ・エコノミスト電子版2023年12月15日付は、読者が操作することで、さまざまな比較ができるページ「2023年の最も豊かな国」を提供してくれている。ここには国民一人当たりGDP以外にも、それぞれの国内の物価を反映させた購買力平価による一人当たり収入(物価が高ければ順位は下がる)、さらに同じ給料を得るための時間比較(労働時間が長ければ順位は下がる)も考慮した一人当たり収入値の3つのデータで見ることができる。

一見、日本は先頭集団に入っているように見えるが、米国との間にも他国がいっぱい


「諸国家の富を比較することは、人びとが思っているよりも難しい。より多くの人口を持つ国は経済規模も大きいが、一人当たりの所得が高いとは限らない。普通は一人当たり収入のドル換算を豊であるか貧しいかの判断の基準としているが、これもそれぞれの国の物価水準を考えてはいない。さらに、同じ賃金を得るための労働時間も考慮して調整すれば、それはまた異なった順位になるかもしれないのだ」

日本は一人当たりGDP購買力平価による計算、労働時間を考慮した場合のどれでも20位に入っていない


ということで同誌は、ドル換算の一人当たりGDP、購買力平価で調整した一人当たりの収入、さらに同じ労働時間を考慮した一人当たりの収入の3つで比較を試みたという。それで見ると、たとえばアメリカはGDPが群を抜いて最も大きいが、一人当たりGDPは7位でしかなく、購買力平価でみると8位にとどまる。長い労働時間と少ない休みを考慮すると11位でしかないことになるのである。

日本:購買力平価を考慮した場合の位置は、繁栄の回復には円安を解消しただけでは難しいことを示唆している


他の国も見てみよう。たとえば中国だが、GDPだけをみれば世界第2位の経済大国だが、一人当たりGDPでは65位、労働時間を考慮すれば96位にまで下がる。韓国の場合、一人当たりGDPで見ると31位だが、購買力平価を考慮すれば30位とほぼ同じ、これが労働時間も考慮して調整すると、なんと47位までさがる。いっぽうヨーロッパ諸国の場合には、逆の傾向が見て取れる。

韓国:購買力平価での比較では日本を超えているが、労働時間が多いことが問題として残っている


たとえば、ベルギー、ドイツ、スウェーデンなどは、それぞれの国の物価水準や労働時間を考慮すると、ランキングを飛躍的に上げることになる。ルクセンブルグなどは一人当たりGDPで見たときトップクラスに大きく飛躍する国の例であり、ノルウェーは労働時間を考慮した一人当たりの当たりの収入が世界でも最も高いので、この国も意外な飛躍を遂げることになるわけだ。

ドイツ:今回の3つの指標すべてで日本を上回っている。単に名目GDPで日本を超えたわけではない。特に労働時間の少なさは労働生産性の高さを物語っている


とはいえ、こうしたジ・エコノミストが提示している計算結果が、ほんとうに正確なものといえるのかといえば、同誌自身が「ここでの計算は不正確となりうる」と断りをいれている。たとえば、財やサービスの質を本当の意味で評価することは難しい(たとえば、アメリカの理髪店と日本のそれとでは比較はかなり困難だろう)。また、世界に向けて発表されているデータが、信用できるものかは分からない(嫌なデータは改竄するか発表しない国もある)。さらに、中国のように極端に貯蓄率が高い国については、購買力平価による調整がそのまま生活レベルを反映しているとは言えない。

同誌はきわめて謙虚に述べているので、グラフやデータを見る側もあまり軽挙妄動しないようにしたい。たとえば、ドイツが名目GDPで日本を追い越しただけで、それほど失望する必要はないかもしれないし、また、多くの日本人が気にする韓国の経済が何か特別なファクターで高く見積もられていると怒り狂う必要もない。


そしてまた、いまの円安が解消さえすれば(たとえば対ドル150円のレートが100円になるとかすれば)、日本経済は一気に1980年代の繁栄を取り戻せると考えるのはあまりにもバカバカしいだろう。円高になれば確かに外国旅行は容易にできるようになるが、その分、輸出の不振につながるかもしれない。一人当たりのGDPは本当はもっと高いはずだから、誰かが操作しているなどという陰謀論に陥ったところで、日本国民の生活水準が上がるわけではないのだ。

そんなバカバカしいことは誰もやらないと笑っている人のなかにも、ひょっとしたら「日本の場合は財務省が本当のデータを隠している」とかの主張をしている本を買って、憤りを覚えていた人がいる可能性がある。まあ、それは極端な例として、日本の場合、ここにあるジ・エコノミストの計算をある程度信じれば、すべてが下がっているので、残念ではあるけれども、それなりの整合性があると見てもよいように思われる。