HatsugenToday

東谷暁による「事件」に対する解釈論

スウェーデンのコロナ委員会が報告;対策は遅すぎ、そして不十分だった

【追記】いまスウェーデンは、政治的混乱のさなかにある。ロベーン首相の辞任をうけて女性初のアンデション次期首相が選出されたかとおもうと、たった1日で辞任してしまった。さらに与党の社会民主党が政権の座からおりる可能性は高いと報じられている。それは、以下のようなコロナ対策の大失敗に対する、くすぶっていた国民の批判があるからだ。あえて、再投稿するしだいです。

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スウェーデンの新型コロナ対策にかんする「コロナ委員会」のレポートが、10月29日に発表になった。ひとことでいえば「コロナ感染が広がるなかでの対応はあまりにも遅く、パンデミックに対する準備が不十分だった」というもので、ほぼ予想通りだった。なぜ保健医療大国であったはずのスウェーデンが、北欧諸国のなかで最も悲惨な結果を生み出したのかを検討し、これからの対策を示唆している。

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ワクチンの接種が進み死者数も減ったが、ロベーン首相は今月辞任する


素早く報じたのは英語スウェーデン情報サイト「ザ・ローカル」で同日の午前10時すぎにはインターネット上に「キーポイント:スウェーデンのコロナ対策に評決が下された」との記事を掲載した。「このレポートは、パンデミックへの対応が遅かったと結論づけ、ウイルスを制御する当初の処置が『国内にウイルスが広がるのを阻止し、あるいは抑制するとしても不十分だった』と述べている」。

他にも比較的報じるのが早かったロイター10月29日付けは、今回のレポートの背景として、「スウェーデンの初期の戦略は、多くのヨーロッパ諸国が厳しい制限を加えているのに対し、ロックダウンを回避してマスクなどの対策を採らないで、緩慢に抑制するというものだったが、それがスウェーデンを(対策において)孤立させることになった」と説明している。さらに、同紙はロックダウンの回避について、委員会がどのように判断しているか注目している。

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一時は1日で感染者が7000人を超えていた。いまは700人程度に


「委員会によれば、スウェーデンが採用した非ロックダウン戦略についての評価は、最終レポートに譲るとしている。ただし、今回のリポートにおいても、他の北欧諸国との関係や2020年春の国内での感染拡大を考えると、さまざまな対策を導入するのが遅れたとの見解を示している」

この委員会のレポートは、他にもコロナ対策を推進した「権威者」たちが、あまりにもソーシャル・ディスタンスや手洗いなどの対策について、国民の自主的な取り組みに依存し過ぎていたことを認めている。その点、同紙は、政府はウイルスとの戦いにおいて、保健当局と国家疫学者アンジェス・テグネルに、依存し過ぎたのではないかと疑問視している。

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国家疫学者テグネルは、常に強気の姿勢で対応してきた


もちろん、同紙は、スウェーデンの1万5000人余という死者数は、人口当たりの数値にした場合、近隣の北欧諸国に比べると圧倒的に多いものの、たとえば英国などの悲惨なケースと比べれば、ずっとましであることも指摘している。また、対策の継続性を考えた場合やビジネス・フレンドリーという観点では、他の国でも評価する人たちがいることにも触れている。

しかし、政治的に見た場合には、かつて報じられたように、スウェーデン国民は政府に高い信頼を置いているという議論は成り立たなくなっている。前出のザ・ローカルによれば、責任をとってもらうべき当事者たちは、あいついで役職から去ってしまうと指摘する。社会民主党の党首で首相のステファン・ロベーンは今月に辞任し、公衆衛生局のヨハン・カールソンは辞任する。また、マスコミの矢面に立ってきた国家疫学者テグネルも、じきに退任すると見られているという。

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死者は合計1万5000人を超えた。人口比で日本に置き換えれば18万人余になる


ロベーン首相については補足がいるだろう。今年夏、ロベーン首相は重要案件とはいえない法案審議中に、彼の不信任案が議会を通過して、いったん首相辞任に追い込まれた。ところが、野党のほうの政治ミスで新しい首相を擁立できず、しかたなくロベーンが返り咲いたが、さすがに自らの限界を感じたのか、その時点で党首を辞任することを予告した。

もちろん、現ロベーン政権の健康社会担当相レナ・ハレングレンは、このレポートの見解に異議を唱えた。ラジオ・スウェーデンのサイトによれば、ハレングレンは「パンデミックへの準備が不適切で、コロナウイルスへの対応があまりにも遅く不十分だったという(委員会)の見解には同意できないと述べている」。

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Radio Sweden:健康社会相ヘレングレンは委員会の指摘に同意できないと発言


リポートを発表した委員会は、議会の強い要請で政府が設置したもので、座長にはスウェーデン最高裁判事を経験したマッツ・メリンが就任した。今回のリポートは2度目で最初のリポートは昨年12月に発表されている。このときのリポートは、「スウェーデンのコロナ対策は高齢者をコロナ禍から十分に守れなかった点で失敗だった」との見解を表明した。来年の2月には最終リポートを提出する予定でいるという。

「昨年12月に、コロナ委員会はすでに第1回目のレポートで、高齢者の介護施設におけるマネジメントについて見解を示しているが、それは『失敗』だったと述べている」(ユーロニュース10月29日付)

今回の第2回目のレポートについて、長いサマリーなどを検討し、もう少し細かく書いておきたいが、それは「コモドンの空飛ぶ書斎」に譲ることにして、ここでは「速報」としてリポートの概要を紹介するにとどめることにしたい。