HatsugenToday

東谷暁による「事件」に対する解釈論

菅首相の退陣はただのオウンゴール;安倍前首相に続いてコロナからの敵前逃亡だ

菅首相自民党の総裁選に出ないと表明して、一気に政局は混沌へと向かっている。これは、安倍首相とならんで新型コロナへの対応ミスによって追い込まれて、事実上の敵前逃亡をしたということだろう。菅首相が直面していたコロナ問題は、他の国の首脳に比べて必ずしも難しいものではなかった。にもかかわらず惨めに失敗して責任を放棄したということだ。

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奇妙だったのは、一貫して菅首相は今回のコロナ禍にたいして、核心を外したような対応ばかりが目立ったことだ。かならずしも常に正しいというわけではなかったが、公的な感染症専門家たちの指摘は、大きく逸脱していたものはなかった。しかし、菅首相は口にはしなかったものの、普通のコロナ認識については、むしろ、異端派の主張にひかれていた形跡がある。

だからこそ、コロナに対する対策は常に甘く、一貫性がまったくなく、せっかくの日本がもっていたコロナに関するアドバンテージをつかい切って、いまに至ったとみることができる。緊急事態宣言によってショックを緩和すると同時に、ワクチンの完成をまって政治および経済資源を投入し、日本国民をコロナから守るというのが、ごく自然な発想だった。

しかし、菅首相が考えていたのは、「コロナは(本当は)風邪並み」「日本人には(実は)免疫がある」といった、愚劣な発想に近かった。こうした対応は、かならずしも菅首相だけではなく、自民党のかなりの部分に「感染」していた発想だったと思う。そんな発想で現実のコロナに対応して、成功するわけがなかった。

保守的であるということと、危険を前にしてマッチョにふるまうということは、まったく関係ない。左翼にも冒険主義があって、それらはたんに現実を正確に把握する気力のない人間たちの、自堕落な行為にすぎない。

コロナウイルスに対して、「科学的」「合理的」と思い込んで、実は「非科学的」「非合理的」な対応をしたのは、日本の政治家たちだけではない。アメリカのトランプ元大統領、ブラジルのボルソナロ大統領、そして、意外に思うかもしれないが、スウェーデンのロベーン首相がいる。

ロベーン首相は、少し前に、それほど重要でない案件で、不信任案が可決され失脚している。その後、野党の政治的失敗のために復活したが、結局、与党の党首を辞任せざるをえなくなった。これが「福祉大国」「医療大国」といわれた、同国のみじめなコロナ対策失敗と関係ないと思う人は、よっぽどどうかしている。

日本に戻るが、いま日本の株式市場は上昇している。つまり、市場も菅首相にはやめてもらいたかったのである。コロナ禍の本質を理解することなく、異端説をえらそうに説く評論家や自称学者の愚説に傾斜して、「経済、経済、経済」と主張していた菅首相は、けっきょく、経済の当事者たちにも見捨てられていたわけである。