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東谷暁による「事件」に対する解釈論

米中冷戦は米ソ冷戦よりずっと危険だ;ミアシャイマーが指摘する5つの理由

中国が台湾にいつ侵攻するのかが話題になっていたと思ったら、一足飛びにアメリカと中国の「新冷戦」の行く末について論じる人が増えてきた。国際政治学におけるリアリストのひとりジョン・ミアシャイマーは『フォーリン・アフェアーズ』11月/12月号にかなりの分量の「不可避の敵対国 アメリカ、中国、そして大国政治の悲劇」との論文を寄稿して、「米中の新冷戦は米ソの旧冷戦よりずっと熱戦に転じやすい」と論じている。

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その理由を5つ提示しているので、ここではその5つの理由を紹介しておこう。ミアシャイマーの理論に詳しくない人にも、分かりやすいように述べるために、わたくしの解釈が多少混じっているので、その点は了承していただきたい。

第1の理由が、中国はすでに旧ソ連のピーク時に比べて、潜在力においてはるかに巨大なパワーを持っており、いまやアメリカに追いつく勢いだということである。経済力で中国は潜在的に(購買力ではすでに)アメリカを超えており、ひとりあたりのGDPも2050年にはアメリカの1.8倍になると予想されている。

また、ミアシャイマーは大国のパワーを測るさいに人口を重視するが、それは人口圧力を考えるだけでなく、兵力をどこまで増強できるかにかかわっているからである。その点、ソ連アメリカの1.2倍でしかなかったのに、中国は2050年までに約3.7倍もの大きさをもつという統計的予想は軽視できない。

第2の理由は、中国にとっては、トラブルを起こすような同盟国はほとんどなく、そのことによって中国はアメリカとの戦争をためらう要素が少ないことである。また、逆に、同格の同盟国があれば、介入して戦争への傾斜を食い止めることができるが、中国は政治的決断は単独でも可能である。

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第3の理由は、中国はナショナリズムという、戦争を掻き立てる要素となるイデオロギーをもっているが、これがきわめて危険である。ソ連はすくなくとも最初のころは共産主義というイデオロギーがあったが、それは軍事的な行動には直接結びつかなくなった。それに比べて中国の場合、たとえば台湾に対しても、「中国統一」「ひとつの中国」といったスローガンに見られるナショナリズムで臨んでいる。

第4の理由は、中国の領土的野望が強いことが、周辺の国々との摩擦を生み出し、それがアメリカの介入を招く可能性があることだ。それは台湾問題、南沙諸島問題、尖閣列島問題などを考えれば分かりやすい。旧ソ連の場合は、領土的野心を押さえていたので、代理戦争は起こっても、米軍がソ軍に直接に介入するような事態は招かなかった。

第5の理由は、地政学的にいって、米中の新冷戦は米ソの旧冷戦に比べて、はるかに熱戦に転じやすい。たとえば、ソ連には衛星国があって「鉄のカーテン」を形成し、それが米国と直接に武力衝突することを回避していた。しかし、台湾などの領土問題が残るアジアにおいては、米中は常に海洋や空域を通じて、直接衝突のリスクに常にさらされているといってよい。

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こうしてみれば、米中の新冷戦を考えるさいには、旧冷戦との違いがそのまま、大きなリスクを生み出していると考えたほうがよい。熱戦がさらに昂じて核戦争へと発展する可能性は、低いもののないわけではない。「大国同士の戦争は新冷戦のほうが起こりやすいだけでなく、また、それが核戦争になる危険もある」。

ミアシャイマーによれば、こうした米中の新冷戦が熱戦に転じないようにするには、「防衛上の措置に踏み切る過程のルールを、前もって確立しておくことが必要だ」という。「たとえば、海洋上での衝突や他の領域での軍隊同士のクラッシュを回避するための合意などである。もし、米中の双方が相手のレッドラインを超えることが、何を意味するか理解していれば、戦争が起こる確率は低くなるだろう」。