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東谷暁による「事件」に対する解釈論

バイデンが「ガザ占領」は失敗すると牽制;イスラエルのハマス掃討は支持するという

イスラエルが地上戦によりハマスを掃討すると表明している。しかし、それでは一般市民の犠牲も大きくなる。そこでバイデン米大統領がガザ占領は大きな過ちと発言したことが注目されている。もちろん、バイデンはハマス掃討を支持しているが、ガザ占領によってさらに犠牲者が増えるのを防ぎ、自らの中東政策が完全に破綻することを回避したいらしい。


10月15日、CBSの「60ミニッツ」で、バイデンがこれからのイスラエルハマス問題について語った録画が放送された。注目されたのは「ガザを占領するようなことがあれば大きな失敗となる」と語ったことだ。収録は10月12日だったそうで、もちろん時間的な計算もしたうえでの発言だと思われる。

「いまガザで起こっていることを見るがいい。ハマスハマス内部の過激分子はパレスチナ人すべてを代表しているわけではない。私が思うに、イスラエルがガザを再び占領してしまうなら、それはイスラエルにとって間違いとなるだろう。もちろん、過激派を排除することは必要なことだ」(ニューヨーク・タイムズ10月16日付)

CBSの60ミニッツより


この「間違い」という言葉は「大きな間違い」という言葉で繰り返された。ハマスイスラエルを急襲して以降、イスラエルが報復の地上戦を計画するなかで、バイデンはイスラエルを支持するいっぽう、ブリンケン国務長官イスラエルを訪問して、イスラエルへの支持を表明すると同時に、戦時国際法内での軍事行動を求めていた。しかし、今度ばかりは、これまでのようなパターンは、繰り返されないだろうと予測する専門家も多かった。

たとえば、外交専門誌「フォーリン・ポリシー」電子版10月12号に掲載された「ワシントンの中東政策は失敗したのか」のなかで、同誌副主幹のマシュー・クレーニッグは次のように語っていた。「イスラエルパレスチナとの紛争について、ワシントンはイスラエルに抑制的な対応を要求して、そのことで熱くなった事態を冷却化するということの繰り返しだった。しかし、今回は違うと思う。限定的な措置では十分とはいえないだろう」。

これまでのパターンが繰り返されないとどうなるのか。激しい地上戦(地下に潜んでいるハマスを殲滅することを含む)を続けたすえに、イスラエル軍は2005年にいったん引き揚げたガザ地区を再び占領して、そのことで現地での紛争が継続し、中東の全地域が不安定なることが予想される。特に憂慮されているのはレバノンにいるシーア派のヒスボラが、北からイスラエルを攻撃するようになることだ。ヒスボラはイランに支援されているから、もはやイランも参戦した状態になってしまうかもしれない。

 

CBSの60ミニッツより


「バイデン大統領は『60ミニッツ』で、イスラエルを非難することは拒否しつつ、イスラエルは『とんでもない悪』から自らを防衛する権利を持っていると述べている。彼は人道主義的な懸念を表明しつつ、パレスチナ人が戦いを避けることができ、(食料や生活必需品)が供給される安全回廊を作りたいと述べたものの、その種の回廊に批判的なイスラエルを非難することはしなかった」

さらに、バイデン大統領はインタビューアーに、ウクライナ戦争も続いており、また、アメリカ議会の混乱も終わらないなかで、こんどの中東での事態に十分に対処できるのか聞かれて「イエス」と答えている。中東を正常化に向かわせ、同時に、ヨーロッパと共にプーチンの野望をくじくというわけである。「われわれは、世界をよくする大いなる機会を、実に大いなる機会を、手にしているんだ」。

ニューヨークタイムズより


もちろん、アメリカのバイデン大統領が、イスラエルハマスの戦争を限定的なものにする意欲を見せたことは、いちおう歓迎すべきだろう。しかし、規模がここまで大きくなったイスラエルハマスの戦いは、先ほどのフォーリン・ポリシーの論者の指摘は杞憂に終わって「繰り返し」のパターンに追い込むことができるのか。

また、ウクライナ戦争においても、英経済誌ジ・エコノミスト10月14日号が報じたように、バフムトの北方にあるアウディイウカでの戦いが過熱して、「ロシアの反転攻勢への反転攻勢」などと呼ばれている。これも冬を前にして動きは急ではないようだが、英国防情報局は「第2のバフムト」になると警告を発している。