バイデン米大統領の対イスラエル「抱きしめ」戦略は、完全に裏目に出たといってよい。まずはハグして同情を示し、それから過度な報復を抑制するというシナリオだったが、イスラエルは暴走といってよい「過度な報復」に傾斜してしまった。欧米のマスコミもイスラエルの作戦を「暴力」と呼び抑制を求め始めている。
バイデン行くところ戦争と残虐あり。来年の大統領選はやめたほうがいい
象徴的だったのは国連のグテレス事務総長が「ハマスの攻撃は突然に始まったものではない。それまでの経緯がある」「イスラエルは国際法上の違反をしている」との意味の発言をしたところ、ハマスを擁護しているとしてイスラエル国連大使は、グテレス解任を声高に唱えだした。アメリカのバイデン政権が考えていたとされている、まずはイスラエルへの同情を示して、その後に抑制を求めるという「しっかり抱きしめ(hug and close」は単なる「お墨付き」にされ、まったくの失敗だったことが明らかになった。
ハマスの急襲はたしかに法的に正当化できず、また、倫理的に批判されるべきだろう。しかし、それに対するイスラエルの報復爆撃はすでに、恐ろしくバランスを失っている。自己防衛のためどころか、報復すら超えている。英経済誌ジ・エコノミストが掲載しているグラフを見ても、はるかに多くの死者を生み出しているだけでなく、リニアな上昇を見せており、イスラエルの報復は単なる一時的な激情というよりは、計画的なガザ地区抹殺作戦といってよい。
ジ・エコノミスト誌より:死者数だけではない、リニアな上昇に注目したい
また、グテレス事務総長の「ハマスの急襲が突然起こったわけではない」という指摘は、ジ・エコノミストのマップがありありと示すように、パレスチナに割り振られた地域に対して、武力を背景に「入植」を拡大して、1993年のオスロ同意をまったく反故にしてしまっている。もちろん、背景にはイスラエルとパレスチナを超えたイラクの侵略やイランの核武装問題があるが、それがパレスチナ人から土地を奪う正当な理由にはならない。
ジ・エコノミスト誌より:濃い桃色の部分だけがパレスチナ人に残されている
アメリカの国際関係論におけるリアリストの代表ステーブン・ウォルト(ハーバード大学教授)は、1991年からだけでも「5つの事件あるいは要素」を経て、今回のハマスによる急襲に始まるイスラエル・ハマス戦争に至ったという。この過程でアメリカは常にイスラエルを支持してきたが、それが中東の安定化をむしろ壊してきた。今回のバイデン政権による失態もその一部でしかない。
バイデン大統領はイスラエルをハグするために出かける直前、イスラエル・ハマス戦争とウクライナ戦争を並べて、無造作にテロと独裁者に対する民主主義の戦いという構図でくくり、この2つの戦いは「すばらしい時代の幕開けになる」などと述べていた。しかし、いまや2つとも収拾できないどころか、新しい別の戦争(イランとの)が始まろうとしているとの指摘が行われるようになっている。
ジ・エコノミスト誌より:激しい「入植」により、パレスチナ人の土地は激減した
とうとうアメリカのブリンケン国務省長官が、人道的支援を有効にするため「一時的停戦」が必要だと言い出したが、時機を失したとの感が強い。とはいえ、イスラエル・ハマス戦争もウクライナ戦争も、バイデンの頭のなかでしか完全な平和はありえず、「一時停戦」あるいは朝鮮戦争のような「休戦」を目指すしかないことは、すでに多くの専門家が指摘している。バイデンは本来、自らの政治生命をかけて、つまりは次の大統領選を捨てて、この最低限の目標に取り組むべきだが、残念ながらもうものを正常に考えられない状態にあるようだ。