HatsugenToday

東谷暁による「事件」に対する解釈論

中国はイスラエル・ハマス戦争に介入するか:ブリンケン国務長官と王毅外相との会談で決まった次の一手

バイデン大統領と習近平首席との会談が、今年11月に開かれる可能性が出てきた。もちろん、会えばいいというものではない。いま世界は多くの問題で満ちている。それぞれの国においても、この二大巨頭もそれぞれの問題を抱えている。王毅外相がワシントンを訪れてブリンケン国務長官と会談したが、バイデン・習会談以外にも取り上げられた内容は多く、イスラエルハマス戦争についても話し合われたようだ。


ロイター電子版10月27日付は「アメリカと中国はバイデン・習サミットに向けて調整することで合意」を掲載しているが、王毅とブリンケンの数時間の会談の後、11月にサンフランシスコで開催するAPEC首脳会議に合わせ、米中首脳会談についても前向きになっていると報じている。アメリカの高官は「準備を進めている」が、「中国がいる発表するかについては中国側しだい」とコメントしている。

しかし、この外相会談では当然イスラエルハマス戦争についても話し合われ、ロイターはアメリカの高官の話として「外相会談でも繰り返し取り上げられたが、アメリカ政府が中国にこの紛争にたいして、中国の影響力を行使するように説得できたかどうかは明確ではない」と述べている。別の米高官は「われわれ(アメリカ側)は中東情勢については深い懸念を示し、中国側にイランとの関係を通じて、緊張を緩和する建設的アプローチを促した」と述べているという。


同日のワシントン・ポスト紙は「バイデンは緊張を緩和しようとしている中国の外交トップと会談」を掲載して、ブリンケン国務長官王毅外相との会談の後に、バイデン大統領が王毅と短い時間ながら会ったことを伝えた。同紙もまた、かならずしも明確な合意はなかったが、両国とも首脳の会談開催には積極的になっていると報じている。

興味深いのは、王毅がバイデンとの会話で「中米関係においては耳障りの悪い声が次々に聞こえてくるが、われわれは常に柔軟に対応しています。というのも、われわれは何が正しいか、何が間違っているかを決めるのは、より強い武力やより大きな声ではないと思っているからです」などと発言したことだ。意味深長と言えないこともないが、これにはどうやらバイデンが白けたらしいという。


もちろん、ポスト紙は中東情勢についても、ブリンケンが、中東に関係の深い中国がいまの紛争を収拾するため動いて欲しいと王毅に要請したと推測している。アメリカの高官が「中国はあきらかに中東にはいくつもの関係をもっており、アメリカはそれらのコネクションを通じて、すべての国にたいし冷静であることを求めてもらいたいと考えている」などといった微妙な発言もしているという。

ブリンケンと王毅の会談において、イスラエルハマス戦争について話し合ったことを強調しているのが、英経済紙フィナンシャル・タイムズ28日付の「アメリカは中国にイスラエルハマス戦争に対するイランの反応を和らげるよう促す」である。同記事によれば、王毅がワシントンに滞在した3日間のあいだ、アメリカ側は中東情勢の問題を取り上げて、「中国がイランなど中東諸国に影響力を行使して、イスラエルハマス戦争の影響が拡大しないようにして欲しい」と要請したという。


中国がこれを真剣に受け止めていれば、なんらかのイランへの牽制を行うかもしれない。しかし、イスラエルに影響力をもっているアメリカが、地上戦を行わないよう促しても、ずるずると小規模で始めてしまい、いよいよ本格化しそうな雲行きである。いまのところ、ハマスの情報網を破壊するなどして、イスラエルが有利に見えるが、市街戦に本格的に突入すると、地下トンネル網を使ってのハマスの激しい反撃が始まる。圧倒的な武力をもって地上戦で駆逐しても、イスラエルの戦死者は多くなるだろう。

こうした陰惨な戦いに、イランを初めとするシーア派系のヒズボラやシリアの反イスラエル勢力が加担すれば、収拾がつかなくなる危険性は高い。そんな困難な状況のなかに、経済が低迷してどうやら政争も起こっている中国政府が、わざわざ介入するかといえば、まずありえないと考えるほうが自然だ。

ただし、アメリカは中国との首脳会談を前に、南シナ海での「危険で違法な行為」や、覚醒剤の輸出元になっていることに是正を求めている。また、これまで問題になってきた中国製品への追加関税や防衛上の対立も解決していない。こうしたいくつかの中国に対する圧力や要求と同時に、アメリカは妥協的な取引を持ち掛けている可能性もある。

中国は急襲したハマスを批判しないのでイスラエルに抗議を受けたが、だからといって中東の反イスラエル勢力を積極的に支援する気もないだろう。イランへの牽制はまったく不可能というわけではない。とはいうものの、もし、中国内部が政情不安になって、何らかのかたちで引き締めをはかるとしても、それは中国には実利のないのに困難な中東への介入ではなく、台湾侵攻のほうがよほど高い確率で起こるのではないだろうか。