ガザ地区への「次の作戦」に踏み切ったイスラエルのナタニヤフ首相は、奇妙なことにこの微妙な時期に、ハマス急襲の責任を軍部に押し付ける投稿をして閣内孤立の危機に陥っている。ただでさえ、国際世論がガザ地区への地上戦における非人道性に集まっているとき、なぜこのような愚かなミスをしたのか。そしてまた、いまいちばん懸念されるのは何か。
ネタニヤフ首相は10月28日、イスラエル軍部の幹部たちをハマスの急襲を防げなかったとしてXに投稿して批判した。前日夜に、ネタニヤフは軍部の幹部たちにガザ地区への本格的なハマス侵攻を命じていたのにである。危険で困難だとされる地上戦を命じておきながら、そのリーダーたちを批判するというのは、いったいどういう意図なのだろうか。当然、批判が起こった。英経済誌ジ・エコノミスト電子版10月30日速報によれば次のとおりである。
「(ハマスの急襲を防げなかった)ネタニヤフ自身の責任が問われた記者コンファレンスで、答えをはぐらかしたあと、ネタニヤフは Xに『すべての防衛軍の幹部たち』はハマスは戦争の計画はもっていないと報告していた、と投稿した」。おそらく、国内で自分の人気がまるでないことを気にしていたネタニヤフは、ついつい反論したくなって投稿してしまったのだろう。しかし、それにしても衝動的で軽率というべきだろう。
もちろん、この投稿は物議をかもすどころではなく、大混乱を巻き起こしている。ネタニヤフの戦時内閣の閣僚の何人かは、戦時に防衛軍の幹部を批判する愚を指摘してネタニヤフを批判している。さすがに、これまで各種の批判にはけっして屈しなかったネタニヤフも、「性格を考えると驚くべきことに」こんどばかりは例外的に陳謝してXへの投稿を削除したというが、閣僚たちの憤激はとまらない。ただでさえ低いネタニヤフの人気(人気投票で28%しかとれない)はさらに下落している。
この「速報」の締めくくりは「ガザ地区での戦争は激しさを増しているが、ネタニヤフ氏自身の政治的生き残りの戦いも激しくなりそうだ」というものだが、これはちょっと月並みで甘すぎる。企業の社長が、自社の業績が落ちてくると社員のせいにするといった話(それはいたるところにあるが)とは、次元を異にしているだろう。もう虐殺の領域に入ったとされるガザ地区地上戦は、自分の責任を認めない衝動的で軽率なトップと、戦争情報について正しい認識を持てなかった軍幹部たちによって、野蛮なかたちで遂行されていることになるのだ。
そしてさらにネタニヤフを支持して、この戦争をやめさせる気が本当はまったくないアメリカのバイデン大統領は、いまや正常な頭の状態で世界戦略を行っているかどうかも分からない。それをチェックするべきアメリカ議会も、ウクライナやイスラエルへの膨大な支援予算や、トランプ前大統領をめぐって機能不全なのである。もちろん、いつものとおり国連は、宣言する以外は何の明確な政策も決定できず、当然のことながら何の具体的な行動も起こせない。
ちなみに、10月27日に国連で「敵対行為の停止につながる人道的休戦」に反対したのはアメリカとイスラエルなどの14カ国と報道されたが、その内実はオーストラリアを除くとほとんどが太平洋上の小島国家(しかも今回の紛争とは縁が薄く、地政学的にも遠い)ばかりで、くるしい現実が如実に反映されていた。もちろん、こうした小島国家だって、本気で反対したのかは分からない。アメリカの外交官たちが駆けずり回ってこの体たらくだったわけで、それを笑えば笑えないこともない。
しかし、はるかかなたの中東で起こっていることを思えば、バイデンという、「自称保守的」だが、ただの頑迷な「ホーキッシュ・リベラル」を、大統領にしなければならなかった今のアメリカも、ひどいことになっていると思う。
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