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東谷暁による「事件」に対する解釈論

中国の急激なゼロコロナ撤廃は自殺行為だ;反省もなく準備もない危機への突入

中国が行っているゼロコロナ政策の「撤廃」に対して深刻な憂慮が生まれている。それがあまりにも急速で、しかも準備なしで断行されているからだ。国民への忍従の強制を緩和することは好ましいとしても、それがコロナ禍の爆発を伴っているのでは、社会的および経済的なマイナスになる。そして、結局は政治的にも致命的なマイナスとなるだろう。


すでに「新型コロナの第8波に備える(2)ゼロコロナ解除で元の木阿弥になる中国」でだいたいの構図は述べておいたが、いま進行している愚行について、いまのうちに日本でも他山の石とすべきだと思う。もちろん、日本はゼロコロナ策も集団免疫説も採用してこなかったが、欧米でマスクをしていない会議に出席しただけで、「日本もこれを真似るべきだ」と発言する有力政治家やお調子者学者が後を絶たないのは危険きわまりない。いまや、感染やワクチン接種の時期や回数や場所によって、それぞれの国や地域で行うべき対策は細かく異なっているのだ。

とりあえず、中国のゼロコロナ撤廃のやり方から見てみよう。まず、徹底して行ってきたPC検査を、医療関係者などを例外として行わなくなった。また、検査で陽性になった人たちの隔離措置が自宅待機になるなど大幅に緩和された。さらに、大都市を中心にロックダウンが解除されている。ロックダウンの対象となった国民は4億を超えていたが、1週間で76万人まで縮小したという説もある。

ft.comより:急激なゼロコロナ解除の場合の感染拡大


この政策変更はこれまでの習近平体制のやり方からすれば、驚くべき転換といってよく、全国に広がった抗議運動の「成果」だと捉える人もいるだろう。その側面はあるかもしれない。しかし、それにはまず習近平が自らの政策の誤りを認め、国民が納得したうえで、段階的に新しいコロナ対策に進まなければ、この難局を乗り切ることなどできはしない。しかし、すでにニュースなどで報じられているように、あまりに急激で準備なしの解除なのである。これはきわめて危険な措置というしかない。私などは、これは抗議行動を行なった人民に対する「お仕置き」なのかと思ったほどだ。

ft.comより:緩慢なゼロコロナ解除の場合の感染拡大


すでに前出の投稿でも紹介したが、英経済誌ジ・エコノミスト12月7日号では「数十万の死者が出る」としており、英経済紙フィナンシャルタイムズ12月7日付のシミュレーションでもこれから3カ月で「160万人の死者」がでると予測している。もちろん、モデルを使ったシミュレーションだから、これらは「最悪値」といってよいが、私は中国のデータを元にしているなら、それ以上もあると憂慮している。これまでコロナ禍の予想は、過小評価するものが多かったことも思い出すべきだ。さらには、自国にはファクターXがあると信じ込んだ国においては、愚説がいくつも出現したことを忘れてはならない。


ジ・エコノミストは12月7日に社説でも「中国のコロナ規制の緩和は大いなる危機をともなう」を掲載してこれからの展開を憂慮している。「中国はこれまでコロナを閉じ込めることに必死だったのに、こんどはその規制を緩めるというのだ。しかし、たとえばシンガポールや台湾といった、かつて孤立策をとった国々では、ワクチンの徹底した接種で感染の急伸に備え、コロナ用の薬品を積み上げ、集中治療ベッドを増加させて、それから緩慢に開放していった(それでも感染爆発が起こった:東谷)。ところが中国は憂慮などは吹く風のなかに放り投げてしまったのだ」。

中国のコロナ拡散に対する備えはといえば、まったくお寒い限りである。「この国はあまりにも少ない集中治療ベッドしか持たない。医療スタッフも訓練ができていないし、治療法を十分に適応することもできない。もっとも決定的なことは、地方でのワクチン接種が不十分なことで、3回接種した80歳以上は40%にすぎない(しかも、これはmRNA型ではない:東谷)。これでは感染拡大や致死率上昇を阻止することは難しい」。さらに国営メディアの国民に対する裏切りというべき転換には驚くしかない。

「公共および国営メディアはこのところオミクロン株は本当は危険がなく、風邪と変わらないと報じている(日本では評論家や学者がやったことだ:東谷)。これなどは不快なだけでなく虚報といえる。たしかにオミクロン株はマイルドだという説もあるが、しかし、感染による免疫がない地域では激しい感染拡大が起こりうる。香港ではこの春の感染拡大で高齢者が大勢亡くなった。いまや数値を隠す当局に対しては抗議行動が起こるだろう」

ft.comより:中国の60歳以上のワクチン接種率。ただし自国製ワクチン


この記事の最後は、中国の地方政府に対する「同情」で終わっている。「彼らは、感染数を増やさないでロックダウンを解除するという、できもしない仕事を中央から丸投げされるのだ。彼らは、おそらく筆者と同様に、次のように問うていることだろう。『これが政策プランなどと言えるのだろうか』と」。中国がコロナにまみれても構わないという人もいるかもしれない。しかし、まず、経済的影響はきわめて大きい。そして、こうしたコロナ禍に対する奇妙な愚行も、けっして、これからの日本のコロナ脱出策と無縁ではないと思われる。

【付記】日本にとっての影響について、もうひとつ付け加えておくことにする。それは、もし中国で急激な感染拡大が起こった場合、新しい異種株が生まれる可能性があることだ。これはSFではなくて、バイデン米大統領のコロナ対策顧問を務めていたアンソニー・ファウチがすでに指摘していたことである(フィナンシャル・タイムズ12月8日付「ゼロコロナ政策の緩和の後に『感染の波』の危険がある」)。

同紙はファウチの指摘として、ゼロコロナ政策の解除によって、中国の保健システムにストレスがかかり、新しいコロナウイルスが生まれる危険性があるという。この場合には新しいウイルスが世界に広がることもありうる。また、ファウチはmRNA型のワクチンを輸入するように中国に奨めているとのことである。このことはすでにこの投稿でも触れたし、他の投稿でも書いている。新しいコロナウイルスの誕生は、これまでの例でも激しく感染が拡大したときに起こることが分かっている。

 

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