HatsugenToday

東谷暁による「事件」に対する解釈論

タリバンがアフガニスタンを制圧;このとき中国の「役割」は何だったのか

アメリカが引き揚げたアフガニスタンが、タリバンの手に落ちることは予想されていたが、これほど早く達成されてしまったことについては、やはり驚かざるを得ない。アフガニスタン軍は腐敗がひどく、タリバンが着々と準備をしていたと言われても、それだけでは納得できないほどである。

f:id:HatsugenToday:20210816143023p:plain

アフガニスタン大統領ガニはカブールから脱出。背後では中国とタリバンの会談が行われていた


ともかく、まず、事実からおさらいしてみよう。米英を中心とするNATOに訓練をしてもらったことになっていたアフガニスタン軍は30万人いるといわれ、米バイデン大統領によれば、そのなかには優秀なパイロットを擁した空軍も含まれるという話だった。いっぽう、タリバンのほうは6万人ほどといわれ、しかも、ばらばらな部族的性格をもった中世的地域勢力の連合だといわれた。

しかし、ここにみる地図に明らかなように、今年の4月から急速に地方都市を攻略し、7月にはほとんど首都のカブール以外は勢力圏に収めていた。この時点になっても、タリバンの首都侵攻は数カ月後という情報が飛び交っていたが、いまや8月14日にはアフガニスタン政府のガニ大統領が脱出して、ほとんど亡命状態になった。

f:id:HatsugenToday:20210816143117p:plain

faz.netより:今年の4月から8月までの展開がいかに早かったか分かる


細かいことはこれから明らかになるのだろうが、アメリカ軍が撤退を発表することで、いちばん大きかったのは、アフガニスタン政府の制空権が失われたことだったと指摘するメディアもある。ハリボテ状態のアフガニスタン軍が、何とかタリバンを押さえてきたように見えたのは、空からの支配があればこそだったというわけだ。

 そして、もうひとつの大きな事件は、7月28日に中国がタリバンの幹部を招いて、王外務大臣とのツーショットを撮って、それを世界中に公開したことだった。これはミャンマーの司令官を呼んで習近平や王外務大臣と会見してのち、ミャンマーにクーデターが起こったことときわめてよく似ている。もちろん、ミャンマーの状況とアフガニスタンの状況は大きく異なるが、中国のこうしたやり方はある意味できわめて一貫している。

f:id:HatsugenToday:20210816143152j:plain

Reuters電子版より


この点については、ロイター電子版8月16日付が「プラグマティック・チャイナ」として簡単に説明している。上海にある復旦大学の南アジア研究者リン・ミンワンによれば「これは中国にとってきわめてプラグマティックなことです。自分の国を支配するというのは、その人たちの勝手です。ただ、中国に悪影響を与えないでくれというだけです」。

 もちろん、リン・ミンワンは「ただし、中国のようにアジアの大国が、タリバンの代表と会談して、その政治的正当性をオープンに認めたということは、タリバンにとって大きな勝利といえるでしょう」と付け加えるのを忘れなかった。おそらくタリバンは軍事的な勝利の可能性が濃厚になった段階で、背後の「隣国」(ワハーン回廊を通じて76キロほど接している)である中国の、外交的お墨付きもとっておいたということだろう。

f:id:HatsugenToday:20210816143223p:plain

The Timesより

 


同記事は「もちろん、中国はアフガニスタンに自国軍を派遣しようとは思っていないし、また、アメリカが引き揚げたあとに自国がこの国を支配できるという幻想も抱いていないだろう」と述べている。では、中国は何をしたいのか。同記事は「タリバンの代表が王外相と会った後、彼らは中国がアフガニスタンの経済に対して、より大きな役割を演じてくれることを望む」と語ったという。

 では、いっぽう中国側は何を「望む」のだろうか。それはもちろん、広大な中国の国境と接する国々との関係を良好にすることだが、さきほどの「ブラグマティズム」から考えれば、べつにアフガニスタンが豊かな国に変貌してくれることを願っているとは思えない。

f:id:HatsugenToday:20210816143300j:plain

The Timesより:アフガニスタン東部をパトロールするタリバン


同記事によれば、四川大学のツァン・リー教授は、「中国の最優先の事項は、国境を接する国々での宗教的、過激派的、テロリスト的な紛争が起こることをやめさせることです」と指摘しているという。しかし、もちろん中国はもっと積極的な意図(たとえば「一帯一路」という勢力拡大の一環にしようとの計画)も、当然、持っているはずだ。そして、こうしたなか、アメリカはこの歴史的紛争地から、不本意ながら撤退していくわけである。