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東谷暁による「事件」に対する解釈論

トランプが激戦州をほぼ制圧;なぜバイデンは勝てないかをグラフで見る

バイデンが急追していると言われているが、トランプの勝利の可能性が今も高い。理由は独特のアメリカ大統領選挙の仕組みにある。全体で上回っても激戦州で勝てなければ大統領にはなれないのだ。いまのデータを見る限り、バイデンが勝利する可能性は低い。にもかかわらず、バイデンの勝利の可能性を過大に唱えるのは、前回の選挙での支持者が負けるのを見たくない、民主党のしかもバイデン系メディアだけだろう。


米経済紙ウォールストリート・ジャーナル4月2日付は「7つの激戦州のうち6州でトランプがバイデンをリードしている」という世論調査に基づいた記事を掲載して、いまのアメリカ大統領選挙の「現実」を報じている。「世論調査によれば、中心的な激戦の6つの州でトランプは2%から8%のリードを確保している。6州とはペンシルベニア、ミシガン、アリゾナジョージアネバダ、そしてノースカロライナである」。

アメリカ大統領選挙の仕組みについて簡単に説明しておくと、それぞれの州で大統領を選ぶ代理人を選出する。その代理人は前もってどの候補に投票するか表明している。したがって、大統領選挙の勝敗を決するのは、この代理人の獲得合戦であって、いま民主党系メディアが意気込んで報じている全体での支持率の競争ではないのだ。支持率では勝っても代理人の数で負ければ大統領にはなれない。そうした事態はこれまで何度もあった。そして最近の傾向として、激戦州以外はたいがい民主党共和党かで決まっていて、結局、最後は激戦州の結果で大統領が決まるようになってしまった。


さて、ウォールストリート紙はいくつものグラフを掲載してくれているので、こまごまと文章で説明するよりもグラフを見てもらったほうが、同紙が述べていることを理解するのに手っ取り早い。まず、上図だが、これはバイデンとトランプが一騎打ちになったときの、激戦7州での今の段階での支持率である。ウィスコンシン州が同率になっている以外は、すべてトランプのリードである。

その理由としては、バイデンの経済政策がインフレを呼び起こして、苦しんだ印象がまだ残っていることや、移民および国境についての政策が失敗していると見なされていること、さらに、高齢と健康問題ではやはり不安を感じさせることなどが挙げられる。最近のアメリカにおける議論においてはアボーションについてのみ、禁止に反対しているバイデンは支持されているわけである。


細かいことを取り上げればきりがないが、経済についてはインフレがよほど耐えがたかったらしく、激戦州7つすべて、ウィスコンシン州も含めて、すべてバイデン時代の政策はよいとはいえないと感じているか、あるいはダメだったと評価しているわけである。これは最近、やたらと財政出動を振り回す日本の政治家たちも、いまのうち教訓としたほうがいいのかもしれない。


バイデンとトランプだけを比較すればトランプ有利でも、たとえば、ケネディ家の末裔のロバート・ケネディ・ジュニアの票がすべてバイデンに流れたとしたらどうなのか。たとえ泡沫候補であっても、何%かの上乗せになるから、状況は変わってくるのではないか。では、ケネディなどの泡沫候補を入れた場合の支持率を見てみよう。残念ながら、この場合でも激戦州でのトランプの優位は変わらない。ノースカロライナなどは8%もの水をあけられているのである。


断っておくが、私はトランプの支持者でもなければ、前回の選挙はインチキだったと考える「Qアノン」の類の一派でもない(この類が日本にも存在するのには驚く)。それどころか、トランプは相変わらずルール無視のごろつき政治家だと思っている。しかし、その支持率が再びアメリカで高くなり、結果としてアメリカ大統領に返り咲くのだとすれば、日本にできることは、前もって十分に準備と覚悟をしておくことだけである。

さて、ウォールストリート紙はもうひとつ統計的に考えて大逆転が起こる場合の想定をしている。それは、どっちつかずの有権者が大挙してバイデンに入れるという事態の場合はどうなるかということである。日本ならば浮動票がすべて立憲民主党支持になったらどうなるかという想定だって、考えておくにこしたことはない。それが最後のグラフである。


「ふらふらしている有権者」「あらゆる選択にオープンな有権者」が一緒になって一勢力となったときの事態はありうつのか、推論できるようなデータを提供している。これは同紙によれば約28%に達する可能性がある。ただし、そういう有権者たちの意識は、たとえばバイデンの経済政策については、よかったと思っているのは24%に過ぎず、よいとはいえずダメだと思っているのが74%に達するという。このタイプの有権者は若い世代やマイノリティに偏在し、前回の選挙でも意外にバイデン支持者が伸びなかった理由のひとつだったとのことである。これだけでも、バイデンにとって十分勝ち目がないのではないか。