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東谷暁による「事件」に対する解釈論

トランプを支援する福音派の内実;2050年までにキリストが再臨、トランプは神が遣わした守護者

トランプ前大統領はアイオワ州に続いてニューハンプシャー州でも予備選に勝利し、共和党大統領候補となるのも時間の問題だ。注目されるのが支持団体である福音派との関係強化をどう進めているかである。2016年の選挙ではアメリカのキリスト教福音派がトランプを大統領に押し上げたとすらいわれた。しかし、その主張と行動は日本人にとってきわめてわかりにくい。いくつかの視点からヒントになるエピソードを紹介したい。

トランプは救世主? そんなばかな!


独紙フランクフルター・アルゲマイネ2月5日付は「トランプの最も信頼できる支持者」を掲載して、トランプ前大統領とアメリ福音派との関係を重層的にリポートしている。アメリカの福音派は聖書を忠実に守るといわれるので、きわめて保守的あるいは道徳的とされることがある。その点、いくつかの点でトランプと親和性があるが、逆にまったく合わないと思われる傾向も持っている。まずは2者の関係について概要を読んでみよう。

アメリカの白人福音派は今年秋の大統領選でも、再びトランプを支持すると見られている。白人福音派アメリカの人口の約14%にしか過ぎないが、2020年の大統領選では全有権者の約4分の1を占めていた。2016年の大統領選挙でトランプは白人福音派の票の77%を得ており、2020年の大統領選挙に至っては、なんと81%を獲得したといわれている」

FAZより トランプと共に祈る福音派支援者たち


アメリカの福音派の数については、文書や資料によって、また、時期によってブレが大きく、いまは上記のように人口の14%であり、有権者の4分の1を占めることもあるとされるわけだが、5000万人という数字を記しているものもある。また、かつては1億人を超えていたなどと記述するものも見られた。なぜ、こんなばらつきが生じるのだろうか。

私がこのアメリカの福音派について知ったのは、1980年代に起こったアメリカの「保守革命」のなかで、俗化が急激に進むのに抗っているのが福音派だというのだった。それは政治にとどまらず日常生活にかかわる価値観にも及んでいて、自称保守派としては好ましいと思われる印象を受ける内容が多かった。

ところが、2000年代になって民主党系の社会学者が、コミュニティの崩壊を指摘する文脈で、福音派はテレビのコマーシャルを利用して寄付金を募っており、その寄付金も振込によって行わせ、宗教活動がもはやコミュニティから乖離しているとの指摘をしていた。これが本当であれば(本当だったわけだが)、エヴァンジュリストといわれるテレビを使った説教師や、エバンジュリカルと呼ばれるグループは、実は、テクノロジーとの奇妙な融合を見せているわけで、保守思想とは折り合わないものではないかとの疑いを持った。

FAZより トランプを囲む福音派指導者たちとペンス副大統領(当時)


さて、この20年後にどうなったかを、フランクフルター紙はつぎのような現象として記述している。「アイオワ州で1月15日に共和党予備選が行われる直前、トランプ(の支持者)がソーシャルメディアに流したビデオが波紋を呼んだ。ビデオは聖書の創世記を思わせる映像で始まり、『1946年6月14日、神は創造された世界を見下ろしながら言われた。〈わたしは守護者を必要としている〉。2分ほどのビデオには、トランプが妻と家族を気遣い、熱心に教会に通う様子が映し出された』」。

これを投稿したのはブレンデン・デリィでトランプ支持団体を率いている。1946年6月14日とは、いうまでもなくドナルド・トランプの誕生日であり、デリィはこうした「神はトランプを創造された」と題したビデオを使って、トランプを大統領に押し上げるための活動を続けている。その内容はきわめて巧妙なもので、ナレーションは往年のABCラジオの人気アナウンサーであるポール・ハーヴェイの声をAIでつくった。シナリオも保守派のハーヴェイが創作した「神は農民を創られた」を基にしている。

トランプ支持者のひとりが言っていた「彼は言ったことは実現した」


いっぽう、トランプのほうは福音派の支援をもちろん有難く受け入れているが、はたして、その言動は保守的で道徳重視の福音派が、なんの迷いもなく支持できるものなのかといえば、当然のことながら疑問符がつくだろう。事実、問題視する同派の牧師もいる。しかし、デリィのような有力支援者は、女性問題や法律違反などの裁判沙汰などより、トランプがいくつかの点で福音派と合致していることのほうを重く見ているようだ。つまり、中絶の禁止や進化論の授業禁止などで一致することのほうが、はるかに大きいのだ。

テクノロジーについても、懐疑的な姿勢どころか、むしろ積極的といってよい。保守的な宗教グループ、たとえばアーミッシュなどは「文明」をいっさい受け付けず、衣服にボタンすら使わないという生活をいまも続けている。しかし、アメリカの白人福音派といわれるグループには、そうした発想はまったくない。自分たちの信仰の核になるものを守るためならば、ビデオでもパソコンでも、それどころかAIでも縦横に利用するし、神が遣わしたトランプを「有効に使う」ためには、道徳的欠陥は問題にならないのである。

バイデンを撃破しても、試練はそれからやってくる


もちろん、こうした精神的姿勢は、早晩、自らの根本的信仰に影響を与えずにはいないだろう。事実、じわじわと浸食を始めており、教義の核心部分にも及ぼうとしている。フランクフルター紙は、エール大学の社会学者フィリップ・ゴルスキーの研究にもとづいて、この微妙な部分に迫ろうとしている。引用の形はとっていない部分でも、以下の考察はゴルスキーの研究がヒントになっていると思われる。

まず、これまでの福音派の考え方では、キリストが再臨する前には、地上に1000年にわたる神の王国が存在することになっていた。これは他のプロテスタントにも見られる考え方だが、福音派はこれをいまのイスラエルの繁栄と解釈し、イスラエルの支援を加速するイデオロギーにもなっていたわけである。ところが、最近のアメリ福音派に見られるのは、決定的な部分で変化が見られるのだという。「これまでの千年王国論は、アメリカ人にある楽観主義の基盤になっていました。しかし、今日では福音派のあいだで、まったく異なる考え方が広まっています。終末論的で混沌とした善と悪との闘いの最中に、キリストが再臨することになっているのです」。

このようなキリスト再臨は2050年までには訪れると信じる福音派が半分を上回り、アメリ福音派が積極的な活動を繰り広げる動因となっている。トランプに対する積極的な働きかけや支援も、こうした終末論的な情熱から生まれている。そして、その情熱が手段を選ばない傾向すら生み出しているという。しかし、そのいっぽう、ハイテクとの融合を進めていくなかでの活動は、世俗化を回避するための手段だったはずだが、世俗化を加速化していることは間違いない。また、「守護者」であるトランプをめぐっても、不道徳化を加速する結果となりつつある。「言い換えれば、白人福音派に忍び寄る世俗化が、忠実なトランプ支持者たちを、さらに熱心な支持者に押し上げている」。

FAZより 福音派のほとんどがトランプを支持してきた


フランクフルター紙のレポートはここで終わっているのだが、私たちは「では、トランプは当選するのか」「そして、2期目のトランプは何をするのか」につなげて考える必要があるだろう。2016年のトランプはこうした福音派の支援があって大統領になることができた。しかし、2020年にはさらなる支援を得たはずなのに、大統領になることはできなかった。どこかに落とし穴があったのか? それはトランプの任期中のやり口に現れていたことは明らかだろう。

相手が高齢者のバイデンである限り、2024年の大統領選には勝利するかもしれない。しかし、生まれるトランプ第2期政権は、第1期以上に世俗にまみれた、手段を選ばない有力支持団体の悪しき傾向を投影していくだろう。もともとトランプが内包していた世俗性と不道徳性がさらに加速されて、国内でも国際においても、倫理的な支えに欠けた腐敗した政治に陥っていく危険が、きわめて大きいのではないだろうか。