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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ウクライナへの最大の脅威はトランプ?;大統領選に勝利しなくても西側世論は変化している

米大統領トランプが、次の選挙で大統領に返り咲いたら、ウクライナ支援をただちに停止すると表明して話題になった。単なるトランプ流の放言だと思ったら間違うだろう。これは共和党右派の大会での発言だが、少し前に米共和党指名争いの模擬投票で62%の支持を得ていることを忘れてはいけない。さらに、さまざまな世論調査は、トランプ勝利に続く支援停止が、現実にあり得ることを示唆しているのだ。


経済誌ジ・エコノミスト3月7日号では、いくつかのデータをそろえているので、同誌のグラフを見ながら考えてみよう。まず、戦争を継続するウクライナに財政的支援を行っていることに賛成かとの質問について、米民主党支持者は75%がイエスであるのに対して、米共和党支持者は39%と4割を切ってしまっている。しかも、問題なのはイエスと答える人たちは米国全体でも下がっており、共和党の場合には急落していることだ。


いまのウクライナに対して、公的な場で支援をしないと明言するのは、共和党といえどもトランプくらいだろうと思ってはいけない。同党の有力者、たとえばケヴィン・マッカーシーや、今トランプの脅威となったロン・デサンティスなども、ウクライナに「白紙の小切手」を切る(バイデンが「必要な限りずっと支援する」と言った)ことに対しては、インフレが進行するなかで米国民の利益を考えない行為として、激しい批判を繰り返しているのだ(もちろん、ぜレンスキーは「ウクライナに来てみればわかる」と激しく批判している)。


さらに、直接アメリカの軍隊を送ることに対しては、もっとアレルギーが強い。ウクライナへの支援は何にすべきか、という問いに対しては、食料や医薬品、戦車、ジェット機、長距離ミサイルなどはかなりの割合が支持する。しかし、軍隊派遣となると民主党でも31%、共和党にいたっては19%という冴えない数字になってしまうのである。アメリカ国民はウクライナ戦争が代理戦争の性格をますます強くしているのに、軍隊だけはいやなのだ。

もちろん、NATOに参加しているヨーロッパ諸国においても、「ロシアへの制裁が西側諸国へのコスト増大を意味するとしたら支持するか」という、やや誘導的な質問に対して、イエスという割合はどの国も下落しつつある。英国などは45%もの支持があったのに、すでに35%に下落、微妙な立場のドイツは39%から29%に、もともと乗り気でないフランスは26%から20%まで落ちた。


トランプという政治家は、日本で80年代からよく言われるようになった「ホンネ」を掻き立てることがきわめて巧みだ。「本当は気がすすまないけど、正義と自由を守るためだ」という人の心理を、「正義と自由を守るためとはいえ、自分たちが大損してまでやらなくても」という「ホンネ」に変えてしまうのである。

また、トランプは2019年にウクライナを訪問したとき、目前にしていた大統領選挙で再選を果たすために、ゼレンスキー大統領にバイデンの息子が汚職をしていることをばらすように迫ったといわれる(この経緯についてはフィナンシャルタイムズ紙が何度もレポートした)。ゼレンスキーはトランプが落選する可能性もあると踏んで、言葉巧みにトランプの要求を受け入れずにすませたという経緯がある。もし、トランプが来年に勝利したりすれば、このときの報復という要素も、大いに加わる可能性があると言われている。