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東谷暁による「事件」に対する解釈論

アメリカはスポーツ賭博国家?;いま数値当て宝くじが低所得層を蝕んでいる

アメリカでは州ごとに宝くじを発行して、そこから生まれるあがりを政策に使っている。しかし、宝くじを買っているのは低収入の人が多く、その傾向はますます加速している。たしかに、宝くじの掛け金は少ないかもしれないが、全体の構図で見れば低収入層へのさらなる打撃になるとして問題になっている。

あなたは、スポーツ宝くじを買う,ど~ン!


経済誌ジ・エコノミスト4月2日号は「アメリカの宝くじ経済学」と題して、ロッタリー(数値あて宝くじ)の興味深い構造と問題点を指摘している。短い記事だが示唆するところは大きいので紹介しておきたい。副題は「本誌の分析によれば、低所得市民が宝くじを大量に買っている」というもので、この副題と以下のグラフを見ていただければ、その概要はつかめるだろう。

アメリカでは地方政府が「胴元」になってスポーツの勝敗や記録についての数値あて宝くじを発行している。ここまでは日本と違わない。しかし、その宝くじ売上収入が平均して地方政府収入の3倍以上になっているというのは、ちょっと信じがたい話だろう。2023年の地方政府の宝くじ売上は1000億ドルを超えており、「これが民間の1企業だとすれば、この国で9番目の売上をあげる優良企業ということになる」。

地方政府は収入の3倍以上を宝くじで稼ぐ


しかし、宝くじは低価格といってよく、当たる確率は2億9200万分の1ときわめて低いのに、なぜこんなに売り上げがあがるのか。同誌の分析によれば、それは「ユビキタス(いたるところにある)」からだという。45の州とコロンビア特別区が宝くじを発行しており、「それが安い価格だということは、むしろ誰もが参加できることを意味している」。しかも、地方政府にとって「あがり」の割合がきわめていい。カジノのスロットマシーンは10%弱といわれるが、この公営ギャンブルは30%の収益率を超えているのだ。

もちろん、「この世には良いことばかりのものは存在しない」。その収益構造は、宝くじの購買層において、いちじるしい「歪み」を見せている。ひとことで言えば、貧乏であればあるほど多く、金持ちであればあるほど買わないのだ。同誌の分析によれば、「中央値の家計は10%の収入減なのだが、にもかかわらず宝くじに払うお金は4%上昇している」。つまり、真ん中くらいの家庭は収入が減っているのに、宝くじはもっと買うようになった。

低所得の人ほどスポーツ宝くじをたくさん買ってしまう


「ジップコード(郵便番号)を用いた調査では、低所得層の下から1%は1年で600ドル(売上全体の約5%)の宝くじを買っているのに対して、高所得層の上から1%は150ドル(全体の約0.15%)しか買っていないのである。つまり、ざっといって最低所得層は、収入を考慮雄すると、最高所得層の約30倍も多く買っているということになる」

まあ、こんなもんだろうと納得しないわけではないし、コロナ禍時代の反動という要素もあると思われるが、「パンデミックは明らかに事態を悪くしている。最低所得層は2021年に宝くじに、2019年にくらべて、100ドル多く使うようになった。それにくらべて最高所得層は、わずか10ドル多くなっただけだった」。金持ちは情報を持っているから、こんなに効率の悪い投資をする必要はないが、効率のよい投資先についての情報が得られない低所得者は、夢のような一攫千金を夢見てしまうのだ。

不況の時代には射幸的な(運に左右されリスクが高いがリターンが大きい)投資や消費が増えることは、経済学者キンドルバーガーなどの研究で示されてきた。ジ・エコノミストの指摘が正しいとすれば、パンデミック期にも同じ傾向が加速したわけで、不安が人びとを博打に走らせるといえるだろう。おそらくは、これから世界情勢が悪化すれば、さらに射幸的になる危険性がある。