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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ウクライナの今の財政状況が分かってきた;パッチワークでしのぐ軍事費の調達

ロシアとの戦いを続けているウクライナの財政事情は、これまでまとまった形では報道されてこなかった。軍事費だけで50%増やす計画のなかで、自国の財政支出の増額や西側諸国からの援助はもちろん、さまざまな金融のテクニックを駆使して、来年の防衛予算をファイナンスしようとしている。


米経済紙ウォールストリート・ジャーナル9月18日付は「ウクライナは戦費の捻出のため戦いながら現金を探し求めている」を掲載している。ウクライナの経済はロシア軍を駆逐するために反転攻勢をかけているが、そのため2024年には財政赤字が400億ドルを超えると見られている。キーウ政府はこの戦いを維持するために、当面の資金調達に余念がない。

そのための方法としてはさまざまなものがあるが、まず正面からのものとして戦時公債の販売で、これは企業や個人を対象としている。また、国際社会による援助をつのり、現在の負債のリストラも同時進行している。いっぽうではかなり微妙な方法も採用している。たとえば、凍結したロシアの資産をユーロクリアに委託して運用してもらい、その利益を得るという方法もある。また、運用の複合体を形成して世界中の投資家から資金を集めている。

アメリカの援助より、国内の国債販売額が大きくなった


ウクライナの経済は、今年はやや安定していたので、政府は2023年の経済成長率を前年の1%から4%に上昇すると予想していた。しかし、そのいっぽうで、経済調査会社のICUによれば、戦争前より25%低いレベルで終わりそうだとの見通しも発表されている」

ひと月に砲弾を90万発を発射しているこの戦いを前提として、議会は今年の財政支出を300億ドルから400億ドルに引き上げる法案に賛成することになるといわれる。さらに、先週には財務相は来年の財政支出が450億ドルに上げる案も検討中であることを明かしている。

これはあくまで、戦争を切り抜けるための話で、戦争が終わってからのことも今のうちに考えておかねばならない。「なぜなら、この戦争に勝ってもロシアはすぐに脅威として復活するからだ」。いまキーウ政府は今年、地方債を売って100億ドルの資金調達を行ったが、これはアメリカからの援助の85億ドルよりも多い(グラフ上)。

2029年償還の外貨建て国債は7.75%の利回りとなった


戦争の初期においては、政府発行の新規国債はそのほとんどを中央銀行が買い上げてきた。いまは民間部門がインフレ連動10%の利回りを前提にして購入が増えている。民間銀行、企業、そして個人が保有するウクライナ国債はいまや今年だけ30億ドルに達している。そのいっぽう、中央銀行保有額は4億ドルまで低下している。

キーウを中心に活動している資産運用および保険業のARXは、国債保有量は投資額の60%だったが、今年は75%の8000万ドルにまで増額している。同社の国債投資担当コンスタンティン・リキツキィは「我々はもっと政府とウクライナ軍を支えて、魅力的な利回りを維持させたいと思っている」とコメントしている。

しかし、先にも触れたが戦争継続のための資金だけでなく、これからは再建の見通しも立てなくてならない。世界銀行の見通しによれば、少なくとも戦後の再建計画には4億1100万ドルが必要だという。いまのところ難しいが、もし、ウクライナがEUに加盟できれば、開発費用としての資金や農業補助金などさまざまなサポートが受けられる。


とはいうものの、大きく膨らんだ負債をどうするかということも、いまから考えておかねばならない。2000万ドルの負債については2024年までの支払い猶予を得ているが、その他にも負債のリストラが待っている。ウクライナ財務相は、来年の国債償還について、リストラや猶予を投資家たちに提示したいとしているという。

概要を紹介してきたが、ひところ新マーシャル計画が必要だと報道されていたが、いつの間にか立ち消えになってしまったらしい。ももちろん第二次世界大戦後のヨーロッパ復興ほど規模が大きくないとしても、ウクライナ復興もかなりの長期間にわたって、融資や投資の仕組みを運営しなくてはならない。

そしてそれ以前に、いまの戦争をどのような形で停戦に持ち込むかも、もっと本気で世界的な議論として進める必要がある。それは世界にとって復興の負担を減らすことでもある。十字軍きどりのバイデン大統領が立候補するのを諦めるか、落選するのを待っているわけにはいかない。