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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ロシアの核サイトに新しい動きが見られる;プーチンは核戦争の訓練を始めさせた

最近、ロシアでの核兵器についての報道が少なかったが、もちろんプーチンが忘れてしまったわけではない。ソ連時代の核兵器実験場に新しい動きが続いている。全土におよぶ核戦争のさいの避難訓練も行われている。ウクライナでの戦いにおける、重要な駆け引きのひとつであることは間違いない。


ロシア国民が核戦争に巻き込まれたときを想定した、訓練が予定されているのは10月3日で、この訓練のなかには、救助隊員たちが「汚染地域」から大勢の住民を退去させるというステージも含まれているという。英紙ザ・タイムズ10月2日付は「プーチンが原爆の実験が求められるなかで、ロシアでは核戦争の訓練を実施」を掲載している。

同記事によれば、国民の防衛訓練は毎年行われてきたが、今回の訓練のように全国で「自主的」に行われるのは初めてだという。放送メディアのBazaが得た情報によれば、訓練のシナリオは現在の状況に合わせてアップデートされており、ロシアの核エネルギー調査会社のトップであるミハイル・コワルチェクが、核兵器の実験を北極圏で行うべきだと進言してのちに、行われることに決まったという。


コワルチェクによれば、ソ連時代には北極海に面したノバヤツェムリヤで1954年から1990年まで、合計200回以上の核実験が行われた。「ロシアを取り巻く状況はまったくいまと同じで、ここで再び核実験をする条件は十分にそろっている」というわけだ。ちなみに、この人物の兄ユリィ・コワルチェクはロシア銀行の頭取で、「プーチンの銀行家」と呼ばれているほど親しく、弟の影響力も大きいと思われる。

すでに国防大臣のセルゲイ・ショイグは、8月にノバヤツェムリヤを訪れており、9月にはこの地の新しい施設や建物の衛星写真が、CNNによって報道されている。この衛星写真を撮影したプラネット・ラブズは、アメリカや中国の核実験サイトでも、動きが盛んになっている様子を撮影している。中国、ロシア、アメリカは(そうしたサイトで)1990年代まで実験ずみの核兵器を保存していた。

右が2021年7月7日のもの。左が2023年6月22日のもの


プーチンを含むロシアの高官たちは、ことあるたびに核兵器の使用をほのめかしてきた。そのいっぽう、クレムリン系メディアRT支局のトップ、マルガリタ・シモニヤンは、彼女の子供が暮らす家の近くで、ウクライナが飛ばしたと思われるドローンが爆発した直後、クレムリンに電話してきて、「最終兵器」をキーウに発射してと叫んだという事件も起こっている。

NATO核兵器担当は、プーチンウクライナで敗退することになれば、核兵器を使うという危険は十分にあると見ている。また、手を持たない航空士として知られ講演活動でも有名なジェシカ・コックスは「クレムリンの核の脅威を割り引いて考えるのは間違いだ」とはっきりと述べている。NATOウクライナに支援をすればするほど、その危険は大きくなるというわけだ。


先週(9月最後の週)、ロシアは10.8兆ルーブル(900億ポンド)の軍事予算追加計画を発表したが、これは昨年に比べて70%の増加となり、ロシアのGDPの約6%に相当することになる。これまでロシアは多くても対GDP比3%でウクライナでの戦争を遂行してきた。いっぽうウクライナは、軍事予算を7倍にすると発表したばかりだ。すでにウクライナ戦争は両国とも長期戦を覚悟しているということだろう。

クレムリン寄りのロシア国内メディアは、国民はウクライナ戦争を支持しているかのように報じているが、同国メディアに通じている人物の指摘では、本当に支持しているのは国民の15%にも達していないだろうという。「ロシア国民の多数派はキーウやオデーサを占領したいと思っていない」。いっぽう、世論調査会社のトップは「誰も軍事作戦などには参加したくない。しかし、いったん状況が切迫すれば、戦争には負けたくないと思うだろう。国民が軍やプーチンを支持するとは、そういう意味なんですよ」。