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東谷暁による「事件」に対する解釈論

いま住みやすい都市はどこか?;世界のランキング・日本のランキング

どの都市が住みやすいのかという特集は、いまも雑誌が企画に困ったときに採用されそうな記事だ。とはいえ、他にいくらでもテーマがありそうな雑誌でも、定期的にやっているところをみると、何度やっても人気の高いものであることが分かる。なぜ、この種の記事がよく読まれるのだろうか。ここで紹介するのは、英経済誌ジ・エコノミストが毎年やっている「住みやすい都市」のランキングだが、ジャンルが近いということで日本の雑誌では週刊東洋経済のランキングも参考としてつけておいた。


まずは、ジ・エコノミストのランキングだが、6月26日付の「世界で最も住みやすい都市2024年版」を見てみよう。このランキングでは、毎年173の都市を5つのカテゴリー「安定性」「健康管理」「文化と環境」「教育」「インフラ」を100点満点で評価して、最後に合計してランキングするというものだ。単純なようだが、同誌にはそうした調査を専門にしているEIUという関連会社があって、あれこれ統計学的な配慮をしたものであるようだ。

今年のナンバーワンはウィーンで、3年連続の栄誉に輝いたのだという。5つのカテゴリーのうち4つが満点で、ただ、有名なスポーツ・イベントのないことが「文化と環境」に減点を生じさせたという。なんともうらやましいような、理想の都市ということなのだろう。もっとも、都市に対する評価の対象が西欧の価値基準であることも確かで、評価の高い都市は西ヨーロッパに集中しており、また、その相対的地位はゆるぎそうにない。


そのいっぽうで、戦争によって荒廃した都市のランキングが低下するのは当然のことで、ダマスカス、カラチ、キーウなどは、この数年の間の戦争によって、住みにくくなっているわけである。同じようにテルアビブは、安定性が失われ、インフラ、文化と環境の点数が大きく下落した。このイスラム都市は20位低下していまや112位になっている。


コロナ禍の影響はきわめて大きく、世界的に「住みやすさ」の平均値が落ち込み、そのあとリバウンドした。その前後ではほんの少し、0.006ポイントの上昇がみられるという。また、いまインフレ率は世界的に低下してきているが、その影響はまだ続いている。「価格高騰はインフラに大きな影響を与え、それはオーストラリアやカナダで顕著」。注意点としては、「この10年間は都市の生活はこれまでの最高になったといってよいが、それが世界でまんべんなく生じたというわけではない」ということだ。


都市の比較といっても、世界規模と国内では同じレベルで論じられるものではない。したがって、ここで付け加えているのはあくまで参考のためとご了承いただきたい。東洋経済ONLINE 6月27日付の「『住みよさランキン2024』全国総合トップ200」のうち、50位までを図版引用しておいた。ネット上では誰でも読めるので、自分の街がどの程度の評価なのかを確かめるのもよいかもしれない。ランキングの基準は「安心度」「利便度」「快適度」「富裕度」の4つであるという。

 

東洋経済ONLINEより


さて、冒頭で述べたわたくしの疑問についてだが、多くの読者はべつに住むところを変えようとして読んでいるわけではない。これまでも多くの「住みやすさ」比較が発表されているが、他の街が素晴らしいと思ったからといって、簡単に引っ越すことなどできない。どの街に住むかは「足でおこなう投票」、つまり引っ越すことで都市を評価することであるなどといっている人たちがいるが、人間の住居をめぐる選択は、それほど単純なものではない。素晴らしいと思われる街でも、それは単に夢にとどめて楽しむという人は多いのではないだろうか。

東洋経済ONLINEより


わたしくの場合をいえば、ある時期、不動産の価格を調べているうちに、ネット上の中古住宅サイトに入っていって、あれこれ比較するのが面白くなり、やめられなくなったことがあった。もちろん、いい物件があったからといって、金銭的な制約はきわめて大きく、いまから引っ越すことなど大事業になってしまって、本気でやろうという気は起きなかった。結局、中古住宅を見ながら自分の別の人生を想像していたのだろう。


都市も似たところがあって、講演などにいってこの都市はいいなあと感心しても、引っ越そうなどとは思わない。たとえば、お城の堀の周りを歩いて「松江市はいいなあ、しっとりした風景がいい」と思ったとしても、いまの東京郊外から移転するには、あまりにも多くの障害が存在している。「岡山市はさすが池田氏の城下町、食べ物が旨い」と感心しても、だからといって大藩の城下町だった街に引っ越そうとは思わない。もちろん、ランキングをみてビジネスを考えマーケッティングに役立てる人や、実際に引っ越す人もいるだろうが、ほとんどの人にとって「住みやすさランキング」はひとときの夢を与えてくれる、一種の娯楽ではないのだろうか。