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東谷暁による「事件」に対する解釈論

世界の金融機関が予測する中国の成長率;もっと刺激策を打ち出さないとさらに落ち込む!

中国経済の低迷は確実となってきた。中国に甘い日本の経済ジャーナリズムも、しぶしぶとそのことを認めている。政府目標のGDP伸び率5%は無理で、場合によれば4.5%で終わる可能性すらでてきた。もちろん、中国政府が団体旅行を許可したからといって、日本での中国客インバウンドが急進するなど望むべくもないだろう。


欧米の経済マスコミは、いま、競って中国経済の落ち込みと、これからの見込みについて報じている。そのなかで、ちょっと変わった情報を提供しているのが、英経済紙フィナンシャルタイムズの「半端な金利カットで消える中国経済成長の希望」という記事で、世界の有名金融機関系シンクタンク部門による、中国経済成長予測を一堂にずらりと並べている。

おもしろいのは、これまで経済予測で存在感を見せてきたゴールドマンサックスが、2023年は成長率5.4%と、中国政府の目標を超えるとしたことで、ほかの金融機関はバンクオブアメリカが5%をわずか上回るだけで、あとはすべて5%を切るとしている。バークレイズなどは4.5%という低さである。


これらの予測の比較はもともとブルームバーグが行ったもので、前もって異なる条件をいくつか提示して、それぞれの場合での予測を行ってもらったものらしい。中央銀行である中国人民銀行が8月21日発表した金利カット幅は0.10%というもので、ほとんどの金融機関は0.15%のカットを予測していたので、シンクタンクの担当者たちの驚きは大きかった。

たとえば、成長予測で最も高い数値を提示しているゴールドマンサックスのフイ・シャンなどは「まったく驚いた、これはちょっとした謎だ」とコメントしている。シティのアナリストも、今回の中国人民銀行金利下げ幅は意外に思ったらしく、「政策として失望させるもの」とコメントしている。


8つの金融機関の予測グラフを統合してみると、最大がゴールドマンの5.4%、最小がバークレイズの4.5%で、ノムラもほぼ同じ、メディアン(中間値)が4.75%となる。前出ゴールドマンのシャンは、この予測はあくまでも、これから政策を修正するというのが前提だと述べている。「いまの予測は、政策決定者が大都市の不動産規制を緩和して、来週以降、不動産市場を支援する措置を打ち出すという前提に立っている」と自己弁護気味である。

コンサルタント会社キャピタルエコノミックスの中国担当ジュリアン・エバンス=プリチャード(名前からすると、テレグラフの名物記者アブローズの息子か甥で、社会人類学エドワードの孫だと思われる。どうでもいいけど)は、「中国人民銀行は資金の需要が伸びて欲しくないのではないかと思えるほど」だという。


いずれにせよ、世界の金融系シンクタンクは、中国経済の落ち込みを十分に織り込んで、これからの中国政府の対応と世界経済を見ようとしている。どこかの国のシンクタンクのように、中国が団体客の海外旅行を許可したと聞くと、いよいよインバウンドが復活すると論じたりはしない。そもそも、6月の中国人個人客の場合も2019年の4分の1だった。個人客にくらべて富裕層の少ない団体客のインバウンドに期待している場合ではないだろう。