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東谷暁による「事件」に対する解釈論

中国の成長4.9%に減速の意味;ばらばらに見える事件は大変動の兆候だ

中国の国家統計局が10月18日に発表した、今年7~9月(第3四半期)のGDP伸び率は実質4.9%だった。これは中国にとって良い数字なのか、それとも悪い数字なのか。6四半期続けてプラスといえば良い話だが、伸び率が明らかに減速していることを見れば喜べない。今年3~6月(第2四半期)が7.9%の成長であり、恒大集団の破綻が予想されている最中であることを考えれば、かなり悪いといえるだろう。

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中国人民銀行の易綱総裁は「恒大集団ショックは抑えられる」と発言


「中国の経済成長は、第3四半期において減速していることが明らかだ。不動産セクターのスローダウンとエネルギー不足は、コロナ禍からの不完全な回復を印象付けている。こうした状況は習近平主席にとって大きな試練となりそうである」(フィナンシャル・タイムズ10月18日付)

まず、4.9%という数字だが、これは前年度同期比較でのもので、前期(第2四半期)と比べるとわずか0.2%しか伸びていない。「最近のデータは今年に入ってから経済成長のモメンタムが失われたことを示している。たとえば、工業生産の伸びは9月に3.1%ということだが、これも前月と比べれば0.1%の伸びにすぎない」(同紙)。

意外に思われるのは、恒大集団の破綻危機で混乱をきたしている不動産セクターで、今年に入ってから8.8%の伸びを示している。これは固定資産投資が7.3%の伸びだったことを考えれば、まだ中国経済は強いのではないかと思わせる。もうひとつ、意外な強さを見せているのは輸出で、9月の前年度比はなんと28%も増加している。

こうした、良好な部分によっていまの試練を支えるといいたいのだろう、中国人民銀行の易綱総裁は10月17日に「恒大集団の問題が中国経済や金融システムにおよぼすリスクを当局は封じ込めることができる」と述べた。ブルームバーグ10月18日付によると、易総裁は「恒大集団の負債は集中していない。債権者や株主の利益は法にそって守られる」と語ったという。

しかし、不動産セクターの問題は、長い時間をかけて生じた危機であることを考えれば、モメンタムを失った中国経済が無傷ですむと思うのは楽観的に過ぎる。たとえば、10月15日には中国地産集団が2億2600万ドルの社債償還に失敗してデフォルトに陥った。また、アリババが圧倒的な支配力をもっていた、電子商取引の分野では、激しい競争の激化が進行して、弊害が出ているという。

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習近平が急速にイデオロギー的になっているのは何故か


こうした不動産セクターの動揺や電子商取引の過熱化は、もともと問題が潜在していたところに、習近平イデオロギー的な政策が強化されて、それまでの「弱み」が一気に噴出したものだ。しかし、それらは必ずしも一時的な問題ではない。同様に、次のような中国国内のエネルギー不足も、潜在的な条件があったのに、習近平の性急な姿勢から生じたものだ。

「中国の工場主や世界中の取引相手は、パワー供給の中断が日常茶飯事になるのに備えるようにいわれるようになった。それもまた、習近平主席がきわめて強硬に、世界第2位の経済を石炭依存から抜け出させようとしているからだ」(フィナンシャルタイムズ10月17日付)

個々の経済的な現象を追っていても、中国全体の動向を見ることを同時に進めていかないと、この巨大な国でいったい何が起こっているのか分からなくなる。しかし、経済原理を中心にしてきたはずの中国が、急速に政治的でイデオロギー的な色彩を帯びてきたことを考えれば理解はしやすくなる。

そして、その意味で大きいのは、習近平の中国はここにきて、ますます軍事的な実力誇示にむかっていることだ。国内の混乱を封じ込めるのが容易なら、なぜこれほどまでに露骨な誇示をするのか。核兵器の増強に見られるように、不必要な誇示はやらなかったのが中国だった。ここにも、潜在する中国と習近平にとって、いかに危機が大きいかを感じるのは、私だけではないだろう。