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東谷暁による「事件」に対する解釈論

「部屋には大人がいなくなった」;習近平を制止する者が誰もいない中国の恐怖

中国共産党大会での習近平による独裁体制確立の余波はいまもやまない。なかでも世界の金融市場に与えた影響は大きい。中国企業の株は軒並み下落して、投資家たちを震え上がらせている。投資家たちは「これほどの転換は予想していなかった」というのだが、これから始まる第3期習近平の中国は、政治や軍事においても、投資家たちだけでなく周辺国や世界を驚かせることになるだろう。


英経済紙フィナンシャルタイムズ10月28日付は「もう部屋には大人がいない:習近平は世界の投資家の不意を突いた」を掲載して、西側諸国と対話が可能と思われる幹部が、すべて排除されたことを改めて指摘している。というのも、政治局の陣容をみて世界の金融市場は「中国売り」に染まったからだ。

投資ファンドのアナリストやマネージャーたちは、習近平がいくらなんでも最高指導部である常務委員会に、「穏健派」が2人くらいは入るだろうと思っていた。ところが、選ばれた習近平以外の6人はすべて「ロイヤリスト」つまり習近平に忠誠を誓う者たちで、それが中国株の激しい売りを生み出しているというわけだ。

ft.comより:中国共産党大会以降、中国への投資は下落した


北京にあるゲーブカル・ドラゴノミクスのアナリスト、トーマス・ゲートレイは「もちろん投資家たちは、習近平は基本的に自分の路線に会う委員会をつくると予想していた。しかし、そこには市場に対して理解のある、何人かの大人が部屋に残るだろうと思っていたのです」と語っている。ところが発表されたメンバーはすべて習近平べったりの人間だったので、びっくりしてしまったというのである。

そこで同紙はグラフを提示しつつ、その影響をあれこれ分析しているのだが、とりあえずグラフを見ていただくだけで、そのインパクトは想像することができるだろう。株式による資金の中国流入も、海外の株式市場での激しい下落も確かに大きなものだ。しかし、それと同時に習近平が無理やり行った「ゼロ・コロナ」政策が生み出したものを、ひとつくらい見ておく必要もあるだろう。

ft.comより:海外市場での中国株はどんどん萎縮している


念のために述べておくが、ここでいう「ゼロ・コロナ」というのは、欧米で行われたような「ロックダウン」のことではない。感染者が見つかるとその町ひとつを、郊外に建設したバラック建ての収容施設に送り込むという、徹底した強制隔離政策のことである。なぜ、こんな政策が必要だったかといえば、中国は結局自国でmRNA型のワクチンを製造できなかったことと、高齢者への自国ワクチン接種を怠ったからだ。これも隔離政策でいけると思い込んだためではないかと思われる。

The Economistより:中国だけが極端に出生率が落ちている


話を戻すと、中国ではこの隔離政策のために出生率が下落した。他の国でもそうだったろうというかも知れないが、必ずしもそうではない。他の地域では多少の影響があったものの、かなりの自由を謳歌し、その結果、妊娠し出産している。生物のもつ「生命の躍動」とか言われるものが、どんな隙間でも見つけて活動するというのは本当だといまさらながら思うが、中国の隔離政策では男女を分けて収容所にぶち込んだのだから、生命の躍動は発揮されなかったのだ。そしてこのグラフの曲線をじっくりみれば、どれほどの締め付けを行ったか想像できるだろう。

新華社=共同より:日本の尖閣諸島は中国の軍事的拠点に?


さらにもうひとつ想像すべきことは、独裁制をほぼ完全に確立した習近平は、周辺への軍事的活動を、加速させる意欲を燃やすことになるということだ。これも「経済が衰退すれば軍事行動は行えない」と考える人もいるが、中国に関する限りそうではない。「たとえ1本のズボンを2人で履いても、1皿のスープを2人で啜っても、軍事力を増強する」と述べた毛沢東の教えはいまも生きている。

最近、2016年に習近平尖閣諸島確保について、軍内部会議で発言していることが明らかになった。そしてこれは、台湾侵攻の計画のなかに入っていることを忘れるわけにはいかない。米民主党ペロシが訪台した直後、中国はミサイルを何発も発射したが、その2発はちゃんと日本のEEZ(経済的排他水域)内に落下した。つまり日本は台湾問題については立派な仮想敵国であって、日本が何もしなければ何もされないと思うと大きく間違うだろう。