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東谷暁による「事件」に対する解釈論

言論の自由の絶対主義ではもたない;マスクが買収したツイッターの現実

イーロン・マスクツイッターを買収したことで何が起こるか。その予兆はすでに見え始めている。アメリカのツイッターではトランプ支持者の使用回数が急激に伸び、差別用語を含む投稿が爆発的な拡大を見せている。そのなかでマスクはこれからのツイッターについて、まだ明確なビジョンを示したとはいえない。

「自由の地獄絵図」になんかならないと言っていたが


経済誌ジ・エコノミスト10月31日号は「イーロン・マスクツイッターをどうする気なのか」を掲載して、マスクの買収以降、ツイッターでの使用がどう変わったかのデータを示しつつ、何が起こっているかを紹介している。「データはこのプラットフォームがすでに変化しつつあることを示している」というリードを添えていることから、だいたいの話は分かる。

「ウルトラ・トランプ的陰謀論の支持者マジョリー・タイラー・グリーンが、10月27日、気合を入れ共和党の議員たちに向けて次のようにツイートした。『言論の自由よ!!!』これは自らを新しい『チーフ・ツイート』だと称するイーロン・マスクがついにツイッターを支配することになったと言う意味だった」

トランプ派の人物たちが活性化されている


この言論の自由の達成について、アメリカで沸き立っているのは、同誌によれば、間違った情報発信に批判的なリベラル派に対抗してきた、保守派系の利用者に顕著だと言う。ツイッターを利用しているのはリベラル派の方が多いのだが、マスクの買収によってこのところ保守派に急速にシフトする傾向がみられるというのだ。

「マスク氏によるツイッター買収の後の4日間で、議会の共和党議員たちは470000 のフォロワーを獲得した。テイラー・グリーン議員などは彼女のアカウントへのアクセスが7%も増えた。また、Qアノンと連携している共和党のローレン・ボーバートも5%の伸びを示している」

いまでもアメリカ民主党議員のアカウントのフォロワーは、共和党議員のアカウントより多いので、いまの動向は2つの政党のバランスがとれる方向に向かっているともいえる。しかし、この新規加入者の波は、すでにアメリカの政治にとって、かなり大きなインパクトになっていると同誌は述べている。

ブルームバーグの分析によれば、マスク氏の買収後に無記名の民族差別的投稿が1300%も増えていて、5分間における差別的言葉の増加は170倍に上っているという。マスク氏はツイッターは(発言を自由にしても)『自由であるが故の地獄絵図』になどならないと主張していきた。しかし、初期の兆候をみると、それは保証の限りではない」


ツイッターの未来について述べた記事は多いが、英経済紙フィナンシャルタイムズ10月31日付のオピニオン記事「イーロン・マスクツイッター買収により2つの深刻で難しい問題を抱え込んだ」を簡単に見ておこう。筆者は同紙の米西海岸編集長リチャード・ウォータースである。

2つの問題のうちのひとつは、ツイッターをマスクのいう『地獄絵図』のない「アイデアの自由な市場」としての役割をだめにしてしまう危険があること。ふたつ目は、ツイッターが比較的小規模なニッチェ・ビジネスを生み出すことに失敗することである。第一番目は他でもない、マスク自身がこれまでツイッターでテスラの売却をほのめかしてSECに警告されたことに見られたように、その影響力の大きさから言論の自由そのものを損なってしまう危険である。

第二番目は、ツイッターがビジネスを直接支配することによって、市場の支配力を高めるだけでなく、将来成長をするかもしれないニッチェ・ビジネスの発生を阻害してしまう危険である。ツイッター買収に協力した投資家のひとりは、440億ドルという法外な買収費用が疑問視されているが、実は、ツイッターは3000億ドルの価値が生まれるだろうと語っているという。しかし、それはツイッターの市場支配になってしまうのではないか。

そこでウォータースが提案しているのが、ツイッターの「プラットフォーム」化である。ツイッター自体がさまざまなビジネスに乗り出すのではなく、共通の「場」にしてそこで多くの企業が情報を介した、ビジネス主体として参加するようにすればよいというわけである。ウォータースにいわせると、もともとツイッターは最初の構想ではこうした未来を描いていたのだという。


この種の未来像というのは麗しいものに見えてしまうが、ウォータースがあげている例が「レディット」であるのは、ちょっとひっかかる。このプラットホームは投資アプリ「ロビンフッド」が大勢の素人の投資家たちを大胆な投機に駆り立てたさい、このプラットホームが偏った情報の提供において、深く関係したのではなかったろうか。問題なのは誰にでも機会を与えれば解決するという、新自由主義的な思想そのもので、暴走を食い止める方法にはなっていないのである。

それは第一の問題である「アイディアの自由市場」が危機に瀕するという話と関係するが、マスクが述べてきた「発言の自由の絶対主義」は、やはり極端なリバータリアン自由主義というしかない。すでにマスクも少しずつ「モダレート(穏健)なもの」に修正し始めているといわれているが、少なくとも「他に害をおよぼさない限り自由である」という、J.S.ミル的なところまで穏健にする必要がある。ということは、これまでツイッターを含めて他のSNSも採用してきた自由の概念にまで、戻る必要があるということになる。

 

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