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東谷暁による「事件」に対する解釈論

世論調査が浮き彫りにしたウクライナの試練;アメリカ人の過半数が今以上の支援に反対している

アメリカのウクライナ支援について、CNNが世論調査したところ、約55%が今後の支援を続けるための基金に反対していることが分かった。すぐにホワイトハウスが支援を訴える声明を発表したが、民主党共和党イデオロギー的対立を超えて、全体でも懐疑的ムードが広がっていることが明らかになったかたちだ。

 

CNN電子版8月4日付は「アメリカの多数派がこれ以上のウクライナ支援に反対している」との記事を掲載して、CNN関連会社SSRSによる世論調査の結果を紹介した。これによると、アメリカ議会が今以上のウクライナ支援をするための基金に対して55%が反対で、賛成は45%。また、ウクライナ支援はもう十分にやってきたと考えている人が51%で、もっとすべきだと思う人が48%という結果だった。

かなり微妙な数値と言えるが、いずれも過半数が「反対」だったので、ホワイトハウスの国家安全保障担当のジョン・カービーがコメントすることになった。(「ホワイトハウスウクライナ支援に半数以上が反対しているという世論調査に対して重視しない意向」CNN電子版8月9日付)。重視しない(ダウンプレイ)とはいうものの、カービーはウクライナ支援に反対することは、「座視してプーチンが勝利を得て、ウクライナを強奪するのを許すことになる」と発言しているので、かなり支援を煽る調子のコメントだった。


CNNは民主党系のメディアで、たとえばトランプに対しては激しく批判しており、また、停滞気味のウクライナの「反転攻勢」にも同情的で、それほど大きくない戦果についても細かく報道してきた。そのCNNがウクライナ支援に対して、どちらかといえば不利な世論調査結果を発表したので、ホワイトハウスとしては捨ておけないと思っても無理ない。しかし、ここは否定的反論を我慢して、むしろ支援を呼びかけようという戦略だろう。

CNNの世論調査は、民主党支持者と共和党支持者との違いが分かるデータも好評しているので、それも8月4日付から紹介しておこう。共和党支持者の多くはウクライナ支援基金に反対で71%を占め、アメリカは十分に支援してきたと考える人が59%。それに対して、民主党支持者は支援基金に62%が賛成で、61%がアメリカはもっと支援すべきだと考えている。さらに、それぞれの党にも細かな点では違いが見られる。


「いずれの政党内でも、イデオロギー的な分裂がある。民主党支持者でもリベラル派は74%が基金に賛成だが、民主党支持者でも中間派と保守派は基金支持が51%にとどまる。共和党支持者においては、支援基金に76%が反対していて、共和党支持者でも中間派とリベラル派は反対が61%という数値である」

もっと細かい数値が紹介されているが、だいたいの構図はこのくらいで分かるものの、もうひとつ、バイデン大統領はウクライナの事態に対してうまく対処しているかという問いに対する答えを付け加えておこう。ウクライナに対してうまく対処していると肯定的なのが45%、ロシアに対する対処についてもよいと答えたのが43%だった。このケースも共和党支持者の数値を見ればかなり異なり、ウクライナに対してよいと答えたのが19%に過ぎず、また、ロシアに対してはわずか7%という数値だった。


もちろん、世論調査でこれからの展開がすべて予言できるわけではないが、来年の大統領選がウクライナ戦争についても大きな転換期になりうることは、ほぼ確実といえる。そしてまた、いまのウクライナ軍の反転攻勢の停滞が、アメリカと同盟諸国に対して与えている影響についても、けっして軽視すべきではないだろう。

同じCNN電子版8月8日付に掲載された「西側同盟国はウクライナの反転攻勢について『しらけ始めている』:この戦争は今が一番難しい」は、ウクライナのゼレンスキー大統領の「予想していた事態より遅れており、すべてが非常に難しい」との言葉と紹介している。また、これからの数週間でウクライナ軍が劇的に局面を好転させる可能性は、きわめて低いとの米外交官の言葉を引用している。

ロシアのプーチン大統領が、プリゴジンの乱以降、追い詰められていないとは思えない。しかし、同時にウクライナアメリカを中心とする支援国が「しらけ始めている」ことによって追い詰められている。同紙のなかで、ヨーロッパを回って帰国した米民主党議員マイク・キングレイは「これをプーチンは待っていたのだ」と警告している。「いまがこの戦争でいちばん厳しいときだ」。