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東谷暁による「事件」に対する解釈論

来年のアメリカ大統領選は大動乱への入り口;バイデンもトランプもアメリカ・ファースト

来年のアメリカ大統領選挙は、いったいどうなってしまうのだろうか。バイデンが再選してもあまりの高齢で硬直した政治しかできず、トランプが復活しても野蛮な政治による混乱は大きいだろう。奇妙なのは民主党共和党も彼らに代わる候補者を育てられなかったことだ。自称候補者がいてもリーダーとしての迫力に欠けるか、あるいはとんでもない陰謀論者なのである。


バイデンが再選したとしよう、そのときはアメリカ国内産業への優遇策が加速され、ウクライナ戦争もさらに消耗戦に導かれてしまうだろう。いっぽう、トランプが勝ったりすれば、彼流の「アメリカ・ファースト」が以前にもまして加速され、中国との関係はさらに悪化し、ウクライナへの支援も停止してしまうかもしれない。

しかし、どちらにも期待できないと感じるのは、実は、どちらも同じような傾向を持っているからなのだ。なによりアメリカ優先で国際協調などは後回しという点では、少しも違っていない。英経済紙フィナンシャルタイムズ7月7日号に、同紙政治コラム担当のギデオン・ラックマンが「なぜバイデンはトランプの後継者なのか」を書いている。激しい選挙戦とその後の混乱にも関わらず、バイデンは実はトランプの「後継者」なのだというのである。


そんな馬鹿な、と思う人は多いかもしれない。しかし、たとえばTPPについても、トランプが離脱したのに批判的に見えたバイデンは、まったく復帰する兆しすら見せない。中国との関係もトランプが「米中経済戦争」を始めて世界経済に打撃を与えているのに、バイデンはそれを加速しているだけで、対中関係の修正をしようとはしていない。ハイテク分野については、バイデンになってからのほうが、よっぽど「アメリカ・ファースト」なのである。

ラックマンが指摘しているのは、ある時代にそれまでに確立していたアメリカ政治が行き詰まると、根底から転換する大統領が登場して、彼の路線が新たな支配的傾向となっていくということだ。わかりやすいのは、古典的自由主義の繁栄が行き詰まると、ルーズベルトが登場して開始したニューディールで、その後共和党の時代でも継続して、ロナルド・レーガン新自由主義に転換するまで続いた。

フィナンシャル紙より;なんでこんなに似ているのか


共和党レーガンが始めた新自由主義の帰結であるグローバリズムは、民主党の大統領であったはずのクリントンに引き継がれてNAFTA(北アメリカ貿易協定)へと「発展」させられた。このグローバリズムの転換をもたらしたのは、意外にも、共和党のトランプであって、NAFTAの応用であったTPPを否定したわけである。

こうした巨視的な見方をすれば、それなりに納得はできるものの、トランプが「切り開いた」新しい時代はいま目の前で展開しているように、世界経済が激しく動揺するだけでなく、世界の政治秩序がもろくも破綻していく時代でもある。その収拾には、ルーズベルトの時代のような、世界をまったく変えてしまう世界大戦が必要だと考えられないこともない。しかし、それでは少なくとも次の4年間は、暗い時代であるとの予想しかできないことになる。ラックマンは諦め顔で次のように締めくくっている。

「ワシントンの人間にとって、トランプは野蛮人であるといってよい。彼の遺産はアメリカの民主主義を抑圧するものばかりである。しかし、おそらくはタブー破りの野蛮人が現れて、この40年続いてきた貿易、グローバリゼーション、中国政策においてのコンセンサスを、決定的に破壊してしまうことが必要とされたのかもしれない」