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東谷暁による「事件」に対する解釈論

バイデンはトランプに対して圧倒的に有利?;【グラフで見る】選挙資金だけは積み上げた米大統領選の裏事情

いまやバイデン大統領はトランプ前大統領に対して圧倒的に有利、などといったら馬鹿にされるだろう。多くの世論調査がバイデンには疑問を投げかけ、トランプは共和党の予備選では圧倒的な強さを見せている。しかし、選挙費用の潤沢さからいったら、どういうわけかバイデンの圧勝なのだ。もちろん、今までのデータで見た場合で、これからどうなるかは分からないが、アメリカの政治の現実を見るにはもってこいのデータなのである。


英経済紙フィナンシャルタイムズ2月2日付の「トランプの裁判費用とバイデンの資金バブル:2024年の選挙資金レースの内幕」は、トランプ圧倒的優位を伝えられるなか、バイデンの起死回生を夢見る人にとっては、1杯のアメリカン・コーヒーくらいの価値はあるかもしれない。日本人にとっては、アメリカの大統領選挙のおぞましさを改めて確認させてもらえる、苦みが強いグレープフルーツ割り焼酎くらいの価値はある。

「2024年のアメリカ大統領候補者の選挙戦とそれを支える政治活動委員会は、2月1日にいくつかのびっくりするようなデータを提供してくれた。これらのデータからわたしたちが学べるのは、4つくらいはありそうである」

グラフ1:青がバイデン、赤がトランプ(フィナンシャル紙より)


この4つのうち、第1番目が「バイデンはトランプに比べてはるかに多くの選挙資金を確保している。トランプは法廷闘争のためにかなりの資金を吸い取られてしまっている」ということである。バイデンは選挙戦のために昨年2023年にたったの6700万ドルを使ったにすぎない。それに比べてトランプは2億1000万ドルを消費している。しかし、グラフで分かるように、これからの選挙戦に使える資金はバイデンが圧倒的に多いのだ。

選挙戦のために集められた「キャンペーン費用」、立候補者個人のために寄付された「アフィリエイト・パック」、そして民主党共和党が用意した「各党内委員会資金」の3つ(グラフ1)のいずれにおいても、バイデンのほうが圧倒的に多い。「この大きな差は、トランプが民事裁判と2020年の選挙結果をくつがえそうとしたという反逆罪訴訟を含めた刑事裁判が進行中であることだ。トランプはすべての罪状を否定しているが、これらの裁判はトランプのビジネスに脅威となっており、トランプを刑務所送りにするかもしれないのである」。

グラフ2:上限なしの寄付金スーパー・パックの比較(フィナンシャル紙)


もうひとつ、バイデンとの差を大きくしているのは、アメリカに特有の「スーパー・パック」と呼ばれる特別政治活動委員会に寄付される巨大な資金だ(グラフ2)。前出の「アフィリエイト・パック」は候補者個人に向けられた寄付だが、こちらは個人名ではなく委員会に向けられた寄付なので、事実上、上限がないという不思議な政治資金である。細かいことは省略するが、何度かの裁判によって、アメリカでは個人ではなく委員会へ寄付することは、「政治的表現」の行為ということになって、金額による制限が撤廃されてしまった。

データから学べる第2番目のことは「ポール・シンガーやケン・グリフィンといった、ウォール街の巨額寄付者はニッキー・ヘイリーの金蔓だ」ということだという。けなげにも悪辣なトランプに対抗して共和党の良心たらんとしているヘイリーおばさんは、実は、税金逃れの手口に利用されているだけなのだ(表1,表2)。ウォール街の富豪たちは、この種の寄付には特別措置が適用されるので、税金逃れのために喜んで使っているわけである。

表1:共和党ヘイリー候補への寄付金には富豪の名前がならぶ(フィナンシャル紙)


その税金逃れの寄付が横行していることを如実に示しているのが、第3番目の「富豪の寄付者たちは当選できない泡沫候補者たちにも資金を提供している」という事実である。ウォール街の富豪投資家であるジェフ・ヤスなどは、共和党の予備選で9000票しか獲得できないでアイオワ州だけで撤退した、ヴィヴェック・ラマスワミに寄付を行っているのだ。こうした例は枚挙にいとまがないほどなのである。

表2:スーパー・パックを利用して税金逃れする富豪たち(フィナンシャル紙)


そして、第4番目が「デサンティス支持グループは、彼がアイオワ州で2位にもなれないために撤退するまで、彼の交通費1000万ドルを含む総額1億5000万ドル以上をドブに捨てた」という事実である。支持グループは選挙戦組織、アフィリエイト・パック、スーパー・パックを創設して、デサンティスをフロリダ州知事から大統領候補に仕立て上げたが、あっけなく初戦で敗退した。そして、この際のデサンティスの交通費には、彼の私用ジェット機代も入っていたというのが、このささやかなエピソードのオチなのである。

ざっといって、2番目から4番目のエピソードは、それほど大きな発見というわけではないが、日本人がこうした選挙戦のありかたを見た場合、やっぱりアメリカ人はお祭り好きで、お祭りには金持ちが小判をばらまいて景気をつけるのだなあ、と感嘆あるいは軽蔑するしかないだろう。もちろん、自分たちの国では政治家たちが、せこい仕組みで小遣い銭を稼いでいるのを思い出せば、そのおおらかさがうらやましくなる人もいるに違いない。