HatsugenToday

東谷暁による「事件」に対する解釈論

果てしない後退;日米FTAの裏切り

どうやら、9月25日には「日米FTA」に安倍晋三首相は署名させられそうだ。まあ、安倍首相はもはや何の恥の意識もないから平気だろうが、「TPP並み」という話だった日米貿易協定は、次から次と「TPP越え」が明らかになっている。もちろん、日本側の果てしない譲歩のことである。(9月23日19時すぎのANNによると、署名は延期されることになったという。トランプが追加要求をしてきたか、あるいは日本の譲歩が多すぎて整理がつかなかったのか、それは不明だが、以下の内容にはほとんど影響がないので、気にせずにお読みください)

 

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参議院選挙までは、本当のことを言わないようにしてくれというのが、春に行なわれた安倍・トランプ会談での約束だったといわれるが、それにしても選挙後の真実露呈のスピードは速い。このままでいくと25日には、安倍首相は日本経済そのものすらトランプに引き渡してしまうのではないだろうか。

 

繰り返し指摘されたことだが、もう一度繰り返しておくと、日本政府がでっちあげた「TAG」などというものはどこにもなく、実態は「日米FTA」だったということ。それも、昨年12月に発表された米通商代表部の『合衆国-日本貿易協定(USJTA)交渉』をざっと見ただけでも、包括的日米FTAだったことがわかっていた。

 

その後、前述したように安倍首相は4月にトランプと会談したさいには、夏の参議院選を口実に大筋合意を延期させてもらったわけだが、ある英文紙などはこのときの命乞いの御礼が、いまや日米FTAの内容におけるさらなる譲歩として現れているのだと嗤っている。

 

TPPですでに決まっていた自動車の関税撤廃はどこかにいってしまい、自動車部品の関税も即時撤廃だったのが継続されることになった。さらには、おどろくべきことには、牛肉輸入に24万トンの米国枠を低関税で新設することになったというニュースが舞い込んだ。いったい、どこが「TPP並みに抑えることができた」(茂木担当相・現外相)なのだろうか。

 

この牛肉の米国枠24万トンには、当然のことながらTPP11の参加国であるオーストラリアが不平を鳴らしている。当り前だろう。日米FTAが発効すれば、この24万トンの低関税米牛肉は、オーストラリア産牛肉よりはるかに有利に日本に輸出できることになる。こういうのは協定違反じゃないのか。韓国に文句を言っていられるのだろうか?

 

新規の米国枠については、実は、すでに予想していた論者がいた。昔、民主党のTPP担当をしていた緒方林太郎氏である。正確にいえば、低関税枠ではなく無関税枠ではないかと述べていたのだが、8月20日に自民党森山裕国会対策委員長が、わざわざ記者団に「牛肉の緊急輸出制限措置(セーフガード)をどうするかが非常に難しい課題」などと話しているのが、どうも不自然だと思ったらしい。

 

緒方氏は「この無税輸入枠の推理、当たっていたら褒めてください」と書いていたので、半分だけ褒めることにしたい。さすが元外務省の外交官だけあって、ほんの少しの政治家の言葉の変化から、背後で進行中の企みを見破った(ちょっと外れたけれど)わけである。緒方氏はTPPの推進派だったから、あんまり嬉しくないが、こんなふうにして日本の政治家たちは、アメリカがらみの案件で日本国民を裏切ることがわかる。

 

さて、25日まであと数日しかないが、この間にも新しい裏切りがいくつも明らかになるのかもしれない。それでもマスコミは平然と報じるだろうし、国民も「そんなもんだろう」と思っている人がますます多くなっている。政府の裏切りの被害者でないかぎり、25日以降も何もなかったように過ぎていくのだろう。TPPについてこの9年追いかけてきて、いまも昔もかわらない光景である。

 

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