HatsugenToday

東谷暁による「事件」に対する解釈論

株価の急伸は回復の兆しか?;いえ、ただのトランポンミクスです

アメリカの株価が続伸して、エコノミストのなかには「もうカラ売りができない」と述べている人もいる。つまり、このまま回復基調に入ってしまうと、暴落を前提として仕掛けるカラ売りでは大損してしまうからだ。しかし、そのいっぽうでアメリカの失業率は20%になるという話もあって、いったいどうなっているんだと思う人もいるだろう。

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 とはいえ、たとえば5月18日の米株価の急伸は、かなりの部分がトランプ大統領の「煽り」によるものだった。先週金曜日に「コロナのワクチン開発は年内に」と言っておき、「モデルナのワクチン治験が有望」というニュースが出たところで、自分もある薬を試しているといえば(効くかはともかく)、それは株価は続伸・高騰するだろう。今回は薬品関連だけでなく、バフェットですら放り出した航空会社株まで、復活しているように見えるから、トランプの狙いはまんまと当たった。

 そのいっぽうで、FRB議長のパウエルはほんの数日前に「このままでいくと、失業率20%もありうる」と発言していたのだから、これが正しいとすればアメリカの株価が急進するなんてことはあり得ない。ところが、トランプが発言すると「何かいいことが起こってもおかしくない」という心理が投資家の間に生まれてしまうのである。

 すでに何度か書いたが、コロナ以前のアメリカの株式は「トランポノミクス相場」だった。これは経済学者ロバート・シラーが指摘しているように、トランプが本当にアメリカ経済を強くしたからではなく、トランプが「強くなる」というイメージを掻き立てるような発言を繰り返すことによって生じた、株価だけの幻想的な好景気なのだ。

 いってしまえば、トランプが何かいいことをいうと株価が上がり、現実が彼の言葉を否定するような兆候を見せると株価が下落する。あがったりさがったりがトランプの発言をめぐって生じるわけで、こんなのは「トランポノミクス」ではなくて、言葉の弾みによって上がっても、必ず引力によって下がってしまうトランポンみたいなもの、つまり「トランポンミクス」なのである。

 すでに、英経済誌『ジ・エコノミスト』がこのトランポン的現象を「危険なギャップ」と呼んで細かく分析していることは、「ポスト・コロナ社会はどうなるか(6)甘い幻想より厳しい現実が確実な根拠になる」で紹介しておいた。まだの方はご覧いただきたいと思うが、トランプが煽って幻想を生み出している間にも、実体経済のほうはますます冷え込んでいる。

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それは、実は、トランポノミクスを根拠として何とか回復しているように見える日本の株価も同様であり、また、日本の実体経済がまったく回復していないどころか、ますます冷え込んでいることも、アメリカを後追いしているだけのことである。こんなときに、よくもまあ株式の売買ができるものだと感心してしまうが、ともかく素人が手をだすような状態でないことは確かである。

こういうときでも、素人に株式を買わせている筋の人たちは言葉巧みに「いまだから儲かるんですよ」という論理を組み立てる。しかし、そういわれたら根拠にすべきは実体経済のほうであって、かりそめにも「俺には才能が実はあって、空売りもできるし、売り逃げだってできるはずだ」なんて思わないことだろう。

 ともかく、日本人としては、トランプ大統領の顔を見れば、世界経済の「幻想」が反映していると思えばいいし、安倍首相の顔をみれば世界の「現実」の経済が反映していると思えばいいのである。あの、自信のなさそうな左目の眉の右下がりこそ、実体経済のグラフなのだと思うべきなのだ。

ご参考までに、『ジ・エコノミスト』に掲載された、WHOパンデミック宣言以降の世界の指導者への支持投票である。トランプと安倍晋三はけっこう近いのだが、前者はかろうじてプラスだが、後者はマイナスである。もう、賞味期限はとおにすぎて、消費期限すら終わっているのに、どうしたことだろうか、自民党には何の動きもない。

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