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東谷暁による「事件」に対する解釈論

英国トラス首相はクワーテング財務相をクビに;辞めるべきはトラス首相との声も出てきた

英国のトラス首相は、クワーテング財務相をクビにして、代わりにジェレミー・ハントを任命した。ハントは英保守党の中道派で元外務相だが、「熟練の政治的策士」とも呼ばれている。鳴り物入りで任命したクワーテエングは39日でお払い箱となった。こうした荒っぽい人事に保守党内でも批判が高まり、トラス首相のほうをクビにしたほうがいいとの動きすら強まっているらしい。最初から不安定で危うい首相就任だったから、いまさら驚くにはあたらないが、問題山積の時期に英国政界はマヒしてしまった。


英紙ザ・タイムズ電子版10月14日付には「クワーテング財務相がクビに:トラス首相は新しい財務相を指名する」のリアルタイム記事が、クビになった経緯を解説し、クワーテングがトラス首相に送った手紙を掲載した。クワーテングは「あなたが私に財務相として傍らに立ってほしいというから、私はそうした」などと述べているのはセンチメンタルにも思えるが、その一方で「いま我われは前進して、あなたの政府が財政政策に専心することを強調することが重要です」と未練のないことも示している。しかし、私信ともいえるものをツイッターに載せてしまっているのだから、打ち出した政策の筋の悪さはともかく、クワーテングの心境たるや察して知るべしだろう。

予算の裏付けのない減税を打ち出して、その結果、ポンドは暴落し、株価も下落し、国債の利回りは跳ね上がった。米経済紙ウォールストリート10月14日付の「市場からの圧力のなか、トラス首相クワーテング財務相を解任」や英経済紙フィナンシャルタイムズ10月14日付の「トラス、財務相にハントを指名し、減税政策の見直し準備」は、政権の方針の転換というだけでなく、保守党の危機ではないかと指摘している。

財務相ハント氏


ある閣僚経験者は、トラスの最近の失敗は、彼女のチームの経験不足によるものだと指摘している。また、何人かの若手議員たちは、トラスを辞任させて彼女と党首の席を争ったリシ・スナックを担ぐ可能性を検討しているらしい。この動きに対して、元文化相のナディーン・ドリスは、「これは首相の差し替えの問題どころか、民主主義の転覆だ」と批判しているというが、もはやトラス首相は、まともなリーダーシップをとれるとは思われていない。

解任されたクワーテング前財務相

 

「木曜日には市場は回復の兆しをみせたが、政治的ダメージは癒すのが難しいとアナリストたちは見ている。世論調査会社ユーガヴによれば、労働党への支持が51%に上昇するいっぽう、保守党への支持は23%にまで下落している」(ウォールストリート紙電子版10月14日付)

10月14日の深夜から翌朝にかけて、英経済誌ジ・エコノミストのサイトが不調になって、この雑誌の評が読めないことが残念だったが、翌朝には回復したので「リズ・トラスは財務大臣、売り物の減税策、そして権威も失った」を見てみた。予想どうりの辛辣なものだった。「トラソノミックス(トラス経済政策)は死んだ」で始まり、「トラスは(クワーテングについて)『私たちはわが国のビジョンと成長への強い確信で結びついています』と書いていたが、トラスは確信などすべて捨ててしまった」との文章で締めくくっている。(この部分追加)

やはり問題とされるべきだったのは、トラスの首相としての資質ではないだろうか。これまでも多くの問題発言や失態を繰り返していたのに、強硬派のポーズとパフォーマンスにずるずると引きずられたのは、誰よりも保守党の議員たちだった。多少の経済学の知識があれば、とても信じられない政策を主張する首相と財務相のコンビを誕生させたときから、市場からのリアクションと政治の混乱は予想されていたはずである。