HatsugenToday

東谷暁による「事件」に対する解釈論

ビジネススクールの世界ランキングから何を読むか;フィナンシャル紙の方法論変更は有効か?

世界のビジネススクールにおける今年のランキングがフィナンシャルタイムズから発表された。恒例のものだが、今年はひとつ「異変」があったという。それは何故か。もとよりMBA(経営学修士)なんかに興味がない人でも、ランキング表だけでもちょっと見ておいていただきたい。

バックはコロンビア大学キャンパス(ft.comより)


英経済紙フィナンシャルタイムズ2月13日付は「グローバルMBAランキング2023年:トップに異変あり」との表付きの記事を掲載している。この異変とやらはアメリカのコロンビア大学ビジネススクールがトップに立ったということで、「え? これまでトップになったことがなかったのか?」と、逆に不自然に思った人がいるかもしれない。

そもそも、グローバルMBAランキングはもう25年続いているらしいが、トップクラスは圧倒的にアメリカのビジネススクールである。そんなのを英国の経済誌がこつこつとやっていたこと自体が、不自然と思う人がいるかもしれない。しかし、同紙はヨーロッパ版以外にもアメリカ版やアジア版を出していて、同紙を読んでいる人は圧倒的に外国人とくにアメリカ人が多いのだから何の不思議もない。

ビジネススクール2023年ランキング(フィナンシャルタイムズより)


とはいえ、なぜアメリカのビジネススクールが上位を占めることに対しては、ちゃんと説明をしている。何のことはない、ランキングはさまざまな21分野の評価の合計で決めているのだが、そのなかでも「給料のレベル」にかなりの比重を与えているからだ。アメリカのビジネススクール卒業者たちのなかでも、ランキング対象となっている14スクールの卒業者のうちの12校の卒業者たちの年間収入は、スタンフォード大学ビジネススクールを筆頭に極めて高く、平均でも248669ドルという数値を誇っているのである。

もちろん、今回のランキングにもフランスのインシアードやスペインのリーズ大学ビジネススクールが高位に入っていて、しかも卒業生の平均収入はそんなに高くない。つまり、今回は評価の基準をかなり変えたので、こうした海外のビジネススクールも2位とか3位に位置するようになり、さらにはコロンビア大学ビジネススクールが初めてトップとなったというわけらしい。

この25年間のビジネススクール・ランキングまとめ(同紙)


では、その基準の変更(同紙は方法論の変更と重々しく述べているが)というのは、いったい何だったのか。まず、これまで大きすぎたサラリーレベルの比率を下げて、学生への財政援助、カーボン・ゼロへの取り組み、気候変動についての教育、学生の国籍の広がり、そして男女の数のパリティなどの、数値化による評価を変えたり新たに加えたりしたというのである。

まあ、立派な心掛けだということは言えるだろう。また、新しいビジネスを始める若者にとっても、こうした世界の動向を掴むことは不可欠である。さらに、大企業の社会的あるいは環境問題における責任は重要だろう。しかし、そのことで今回のように異例の変化が起こるとなれば、ランキングの評価というのが、将来への見通し能力に大きく依存することになる。ということは、フィナンシャルタイムズの未来予知能力にかかってくる。

その点、同紙がちゃんと「方法論の変更」の細目を公表しているのはフェアだが、かなり恣意的な変更のようにも感じられる。同紙の社会倫理的センスは推測できるが、予知能力レベルについては、誰に判断できないのが難点といえば難点である。いっそのこと、こうしたランキングは徹底して卒業生の収入だけに限定したほうが、見る人たちが自分の価値観でそれなりに判断できて、分かりやすい気がしないでもない。