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東谷暁による「事件」に対する解釈論

マリウポリ防衛の将校たちがゼレンスキー政府を批判;この8年国防をさぼってきた結果だ!

ロシアが一方的に対ナチ戦勝記念日に自軍の勝利を称賛するなか、民間人の脱出・退避が完了したとされるマリウポリで、戦闘を続けてきたアゾフ大隊の将校の中から、自国のキーウ政府に対する不満の声が上がっている。称賛されてきたアゾフスタル防衛戦のなかで、ウクライナ軍のなかにどのような不満が生まれていたのか。

 

アゾフスタルの製鉄所に立てこもった軍人たちの不満を、おそらく世界で初めて報じたのはフィナンシャルタイムズ紙5月9日付の「ウクライナの指揮官たちがマウリポリ防衛戦をめぐってキーウ政府に激しい批判」だった。このさいの取材は「ズーム」によって行われ、将校たちは製鉄所の地下壕で語ってくれたという。

「われわれの政府はマリウポリ防衛戦において失敗した。マリウポリ防衛の準備において失敗したのだ」と述べたのはアゾフ大隊のイリヤ・サモイレンコ副官である。彼はマリウポリ市のはずれにある製鉄所で防衛隊を率いて戦ってきた。「お偉いさんたちはこの8年というもの(2014年のロシア東部侵攻とクリミア併合以降)、ウクライナの防衛をさぼってきたのだ」。

yomiuri.co.jpより:パラマー副司令官とサモイレンコ副官


これまでもビデオを通じてメディアに登場してきた、スヴィアトスラウ・パラマル副司令官も、キーウ政府の「シニシズム」を非難している。いまもマリウポリの東南部で大量のウクライナ人がロシア軍によって殺されているのに、民間人のほんの少しの人たちが退避できたことを喜んでいるのは、事態を正面から見ていないというわけだろう。

同紙によれば「ウクライナ軍のなかにある、政府に対する異議が表明されたのは初めて」だという。いうまでもなく、これまでアゾフ大隊はロシアの10週間にわたる総攻撃を防衛していることを誇ってきたし、世界のメディアも彼らのひたすらな戦いを称賛してきた。同紙はこうした不満の表明は、ロシア軍の絶え間ない砲撃と製鉄所への襲撃を受けてきた、ウクライナ軍の絶望感のあらわれでもあると示唆している。

それでも、前出のサモイレンコ副官は「われわれが降伏することはありえない。なぜならロシア人はわれわれの生命には興味がないし、また、われわれを生きたまま解放する気もまったくないからだ」と語っている。ただし、「われわれを要塞から引っ張り出そうとする第三者」がいれば、不可能ではないとも口にした。「もし誰かがこの仕事をうまくやれるなら、退避が可能なのかもしれないが」。

ft.comより:アゾフスタリ製鉄所の周辺


サモイレンコ副官は、マリウポリ防衛隊は2500人のロシア兵を殺害し、2万5000人のロシア軍を食い止めてきた。したがってこの戦いは、侵略者に対する非対称的な成果を生み出したから、ウクライナ側の勝利なのだと主張する。もともとアゾフ大隊は極右武装集団が起源だったが、2014年にウクライナの正規軍に編入され、ウクライナ軍のなかで最も訓練の行き届いた軍隊とされてきたという。

いっぽうゼレンスキー大統領は、ウクライナ政府の方針として、国連や国際赤十字と共同で、すべての医療関係者と負傷兵の退避を計画していると語った。また、この地域のウクライナ軍全員が製鉄所を去れるように要求しており、国際社会を通じた外交的努力を続けているとも付け加えている。