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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ウクライナの反転攻勢はいまどうなっているか;衛星データで推測する戦場の現実

いまウクライナの反転攻勢はどうなっているのか。宇宙から砲火の密度を観察することによって、戦況を推測したときのデータが公表されている。それで見ると意外なことに全体としては密度が低下しており、砲火はバフムト東方の地域に集中しているように見える。これは報道情報とはやや異なるが、なぜだろうか。

衛星から観測された「炎」の数から戦況を推測する試みが行われている

 

すでに紹介しているように、英国経済誌ジ・エコノミストは衛星情報を用いて、情報が公開されていないウクライナの戦場の動向を推測するプロジェクトを進めている。それでみると、ウクライナの反転攻勢はまだそれほど規模が大きくなく、また、地域も一般に言われているザポリージャよりもバフムトに集中しているように見える。

要するに同誌は、森林火災の規模などを宇宙から外観するためのデータを、さまざまなデータを加えることで「戦火」とくに「砲火」の頻度のデータに転換して、それをマッピングしてくれている。そのマップは「過去30日間」「過去7日間」「過去24時間」のマップと、ロシア占領あるいは紛争地域とウクライナ確保地域に分けた頻度数のグラフからなっている。

この7日間ではバフムトが中心に動いているようにも見えてしまう


まず、「過去7日間」を見ると、最も砲火の頻度数が高いのはバフムトの東方の地域で、ここで何のものかは明瞭ではないが、ともかく「火」が頻繁に観測されている。これはザポリージャが主戦場になるとの予想からすると、ちょっと意外に思えるのだが、バフムトがワグネルが撤退してロシア正規軍がとってかわった「わけあり戦場」であることを考えれば、何らかの大きな変化が生まれたことは理解できる。

 

これだけ見れば、主戦場はバフムトかヘルソンに思える


そこで「過去30日」のマップを見てみると、実は、バフムトの東方が砲火の頻度が高いのは以前からであり、それがそのまま移行していることに気が付く。ウクライナが発表している反転攻勢によって「7つの村を奪還」とか「1つの村を追加」といった情報は、もっとも激しい戦場で行われたことではないのかもしれない。それはオーストリアの戦略専門家が奪還した村を「単なる前哨基地」と説明し「ウクライナ軍は前哨基地から先には進んでいない」と指摘していたことと整合性がある。

 

大きな丸でも単位は25回であることに注意したい


さらに、「過去24時間」のマップを見ても概況はほとんど変わっていないように思われるので、少なくとも新たな攻勢がかけられているわけではないと推測できるだろう。ただし、ヘルソンの周辺は砲火の数が上がっているようにも見え、読売新聞の報道によればロシア軍はヘルソンとザポリージャの兵士を数千人規模でバフムトに移動させたが、ウクライナ軍がヘルソンで動きを見せているので判断を誤ったのではないかと示唆していることと関係がありそうである。

 

全体で見ても、この1週間で砲火が急上昇しているとは思えない


こうした推測は、たとえ衛星情報によるデータを見ながらとはいえ、やはり素人談義のレベルだろうが、日本のマスコミ情報だけで認識しているよりは、より客観的な状況に近づける可能性もある。ただし、この四つのグラフィックなデータを見るさいに注意したいのは、それぞれの単位が異なることだ。砲火の頻度について円で表示されているが、その単位が異なっていることなどにも目を配っておきたい。