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東谷暁による「事件」に対する解釈論

プーチンは反乱直後にプリゴジンと会っていた;ロシア政府の発表は何を意味するか

プーチンは反乱直後のプリゴジンと会っていた。このとき、プーチンプリゴジンを含む傭兵隊ワグネルの経営陣と司令官たち35人と約3時間、会談を続けたという。ロシアのペシュコフ大統領報道官が7月10日の記者会見で語ったことで、まだ、専門家たちの分析は進んでいないが、かなりの信頼性があると思われる。

 

米経済紙ウォールストリート・ジャーナル7月10日付によれば、「この6月29日の会談の間に、プーチンは、ワグネルのウクライナにおけるロシア軍における役割について評価(アセス)し、プリゴジンたちが起こした6月24日のモスクワ進軍事件についてコメントした」という。このコメントの細部について、ペシュコフはあまり語っていないようだ。

プーチン大統領はこの会談において、プリゴジンを含む35人の司令官やワグナーの経営陣を招いた」とペシュコフは語り、さらに「ワグネルについても言及した」とだけ付け加えたという。ただし、こうしたコメントを行って、どのようにプーチンが反乱を収拾しようとしたかを、正式に語ったことには大きな意味がある。

ウォールストリート紙より


ロンドンにあるロシアを専門とするコンサルティング会社マヤク・インテリジェンスの主任担当であり、長年のロシア研究家で『プーチンの戦争』を書いているマーチン・ガレオッティは「プーチンプリゴジンたちと交渉を行い、自分にとっての衝撃を和らげようとしたことは確かで、これは彼の弱体化を示唆している」と語っているという。

日本ではテレビ以外では時事通信が7月10日の夜に「プーチン大統領プリゴジンと会談」を投稿したのが速かった。「ペシュコフ氏の説明では『プーチン氏は指揮官らの言葉に耳を傾け、今後(の軍務)について提案した』『指揮官らは最高司令官である国家元首の忠実な支持者かつ兵士だと強調した』という」


かなりモスクワ政府内部の弱みを見せる情報を公開しているわけだが、そうした発表を行ったということは、プリゴジンたちの反乱によって生まれた国内の動揺が、あるていど終息しつつあるのではないかとの予測も可能かもしれない。いっぽうで、混乱は確かにあったが、それは最終的にプーチンの掌の中に収まったとのイメージを流したいのかもしれない。いずれにせよ、いま、サンクトぺテルブルクにまだ滞在しているといわれるプリゴジンの消息を含めて、次の情報が待たれるところだろう。

【追加:7月11日夕方】この事件の謎解きが世界各国で行われているが、ニューズウィーク日本版7月11日号は「プーチンが『裏切り者』のプリゴジンと会談していたことで深まった反乱の謎」を掲載して、いくつかの謎解きを紹介している。

まず、プーチンが35人もの反逆者を「招待」したのは何故かだが、元英国防担当のジョン・フォアマンは、この会談には中世でいうところの宮廷儀礼としての意味があったのだと指摘している。「プーチンは寛大なところをアピールし、プリゴジンの反乱に決着をつける」つもりだったというわけだ。


また、シンクタンク「アトランティック・カウンシル」のルーカス・アンドリウカイティスは、今回の事件で最も驚いたのは、プーチンプリゴジンと面会したことを、ロシア政府が認めたことだという。ロシア政府は「プーチンは大丈夫だという神話を維持するためにロシア政府が考えたことであり、プーチン替え玉説を払拭しようとしている」というわけである。

アンドリウカイティスはさらに、プリゴジンが矛をおさめる条件として提示したのは、ショイグ国防相とゲラシモフの解任だったが、いまのところ実現されていないことに注目している。「このことは、プーチンが今後も、自らの政権基盤を揺るがした人物と手を組んでいかなければならない可能性があることを示している」。