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東谷暁による「事件」に対する解釈論

中国の経済成長が4.9%だそうだ;どれくらい信用できるのか検証する

中国の第3四半期の経済成長が4.9%と発表されて、喜んだ人もいれば悲しんだ人もいるだろう。しかし、そのまま信じたとすれば、ちょっとお人よしと思われかねない。なぜなら、中国の経済データは同国政府によって、かなり操作されているのではないかと、いちおうは疑ってみるのが常識だからである。

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なかには、中国の経済データは何から何までインチキであって、実は、日本のGDPはまだ中国のGDPより大きいと論じていた経済評論家もいた。この数値の改竄には、IMFや日本の財務省もかかわっていたという壮大な話も付け加わっていたので、けっこう信じてしまった人もいたのではないだろうか。

 もちろん、中国経済のウォッチャーたちは、そこまで徹底した、あるいはマニアックな疑念を抱かないとしても(そこまでやったら、議論が成り立たないだろう)、さまざまな他の数値と比較照合するようなテクニックで、いわば代替的な推測値を算出し、判断するようになっている。

 今回の「コロナ禍からの脱出、ついに経済も回復した」という報道のさいにも、いわゆるプロの中国経済ウォッチャーたちは、すでに別の代替的な予測値と比較しながら、なるだけリアルな中国経済像を描こうとしていた。もちろん、そこには立場や流派があって、そこそこの違いがあるが、一般の人間はそれらをさらに比較して見ればいいわけである。

 さて、そんな話をぬけぬけと記事にしているのが、英経済誌ジ・エコノミスト10月15日号の「中国の成長リポートは信用できるか」だが、同誌はほかにも「景気後退のなかで右往左往する世界で、中国はV字回復をマネージしている」という、グラフ解読の小記事を記載しているから、最終的な評価は推測できる。とはいえ、「信用できるか」のほうには参考になる話も出てくるので、紹介しておきたい。

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まず、小記事「マネージしている」のほうから見ておくと、中国経済の回復というのは、そこそこリアルな話といってよく、今回の「回復」のなかで注目すべきは、何といっても「消費」が回復しつつあるということらしい。それはそうだろう。これまで同誌も、また、他の経済誌や経済紙も中国の回復に懐疑的だったのは、政府が製造業を煽っても消費が伸びなかったからだ。それが、コロナ以前には戻っていないものの、かなり拡大している(上図の左図の棒グラフ、空色の部分に着目)。

 では、このグラフに反映された数値はどれくらい信用度があるのだろうか。それが、「信用できるか」のほうのテーマである。ジ・エコノミストは3種類の中国GDPグラフを取り上げている。ひとつは、もちろん中国政府が発表した数値に基づくグラフ。ふたつめが国際経済コンサルタント会社であるキャピタル・エコノミックスのグラフ。そして、みっつめがサンフランシスコFRBエコノミストたちが提示しているグラフである。

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The Economistより


すでに述べたように、こうした中国経済ウォッチャーたちが中国政府発表ではない予測値を算定するさいには、中国を取り巻く客観的に特定できる経済の数値をいくつも用いている。もちろん、そこでは何の数値を重視するかということが、出てくる予測値に大きな影響を与える。

 キャピタル・エコノミクスはこれまでも独自の「中国経済予測値」を開発してきたが、今回のチームは8つの指標を使い、ここには「資産の売買から港の積荷まで」が含まれているという。常に言えることだが、キャピタル・エコノミクスの出す予想値は「きびしい」ものになる。たとえば2014年から2019年の累積GDP成長について、中国政府の発表では44%だったが、キャピタルは33%という数値を出しているという。

 いっぽう、サンフランシスコFRBのチームの方だが、「彼らは消費予測値や不動産投資の指標」などを用いていることが分かっている。こうした彼らのやり方は、たとえば、中国政府が発表していた2013年以降のスムーズな成長について、「この期間の半分は過大評価で、もう半分は過小評価をしている」ことを見つけ出したという。

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さて、そこで中国政府の公式発表のグラフと、キャピタル・エコノミクスのグラフと、FRBチームのグラフをいっしょにすると、このような構図(上図)が浮かび上がってくるわけだ。もちろん、ジ・エコノミストはどちらかといえば厳しい数値を出すものと、どちらかといえば穏やかな数値をだすものを取り上げているのだろうが、興味深いのは中国当局のグラフ自体が、かなり「劇的」に見えるものであることだろう。

 以前、雑誌で経済成長率を調べていたとき、すぐに日本のシンクタンクエコノミストは最初から棲み分けをしていて、「楽観値」「悲観値」「中間値」を言うことになっていることに気がついた。付き合いのある編集者によれば、予想を聞きにいくと、「AさんとBさんは何と言ってるの」と聞いて、それから「じゃ、ぼくはその真ん中にしよう」と言ったエコノミストもいたそうである。

だから、この2つの独自の予測値も似たようなご都合主義から出たものだと受け止めるか、それとも独自で厳密なノウハウが追求されたことで出てきた、もっともな相違だと受け止めるかで、かなりの違う判断が生まれるだろう。さて、ジ・エコノミストはどういう判断をしているのか。

 「キャピタル・エコノミクスが公式発表に比べて第1四半期の下落はもっと大きかったと考えているのにたいし、サンフランシスコFRBはそれが(当局よりは大きいが)そこそこマイルドだったと示唆している。しかしながら、今回のもっとも顕著な点については両方とも意見を同じくしている。中国のリバウンドは大きかった。そしてそれは、ごったがえす街頭とさざめく商店街は嘘をついていないということなのである」。

 もちろん、アメリカとの経済戦争はこれからも続くだろうし、おそらくバイデンが大統領になってもすぐには解決しない。また、習近平内需重視をぶちあげているが、はたして慢性的バブルがそれを許すかも問題だ。そして、いまは鎮静化しているように見えるコロナ禍も、はたして今のままなのかは分からない。しかし、第3四半期の4.9%はそれほど奇妙な数字ではないと受け止めておいてよいということなのだろう。