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東谷暁による「事件」に対する解釈論

危機の中国は何を打ち出すのか;恒大集団の破綻後にやってくるもの

中国恒大集団の経営危機は、これからの中国経済を占う事件として、いま世界が注目された。その後も同本社前では、理財商品の弁償条件をめぐって抗議のデモが繰り返され、株式や債券の下落が続いている。当然のことながら、この事態は中国恒大にとどまらないとの悲観的予測を急速に広げている。

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ウォールストリート紙9月15日付は「中国の不動産下落は経済に震動を起こす」との記事を掲載して、かなり悲観的な見通しを示している。「北京政府の不動産セクターへの締め付けは、中国恒大集団の問題をはるかに超えて、経済全体がどれほどの痛みを受けるかという問題にまで拡大している」。

不動産セクターの崩壊の予兆が恒大集団だとすれば、クレジット部門では、花様年控股集団や広州富力地産などのグループが、同じように債務不履行(デフォルト)を起こすのではないかと憂慮されている。また、15日に発表された経済指標では、住宅販売が同時期前年比の金額ベースで19.7%もの下落を示し、建設着工件数も1~8月は前年同時期比で3.2%減少しているという。

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ゴールドマン・サックスの分析によれば、中国不動産開発業者の粗利益率(中央値)は、上期に4.6ポイント低下して約22%。また、モルガンスタンレーによると、不動産開発業者が発行する高利回り債は、今年に入ってから62億ドル(約6800億円)分がデフォルトに陥っているという。

また、ある銀行のアナリストによれば、中国工商銀行では、6月末時点で不動産ローンの不良債権比率が半年前の2.3%から4.3%に上昇している。銀行の不良債権増加は、住宅価格が下落すればさらに深刻な状況となるから、銀行業界には強い懸念が急速にひろがりつつある。こうした事態の概要はすでに「いま中国経済に起こっていること;恒大集団の破綻はバブル崩壊の引き金だ」に述べているので、ご覧いただきたい。

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興味深かったのは、英経済誌ジ・エコノミスト電子版9月16日付が、中国における新型コロナのデルタ株の感染拡大と、こうした不動産セクターに始まる中国経済の危機を結び付けて論じていることだ。同誌によれば、現在の中国の強い規制のもとでの不動産政策は、もともとはシンガポールの不動産政策に多くのヒントを得たもので、それがコロナ禍のなかで、両国とも試練に直面しているというのである。

「北京政府は、負債を積み上げているデベロッパーに対して遅ればせながら規制に乗り出し、住宅ローンのコストが上昇し潜在的な住宅購入者が二の足を踏むようになっているのに、購入金貸付の増加を抑える措置を行なった。(その結果)不動産会社の8月の売り上げは床面積で見ると、前年同時期比で17.6%もの下落となっている」

デルタ株が中国で感染拡大するなか、消費意欲が下落してますます経済全体の先行きを憂慮させている。そのなかで、不動産セクターの改革を始めてしまったのは、明らかに習近平の失策ではないのかというわけである。同じような指摘は、実は、フィナンシャル・タイムズ9月15日付にも見られる。検査と治療が必要なのは、他でもない、中国政府のタイミングを誤った政策ではないのか。

しかし、ジ・エコノミストの記事でもうひとつ興味深い点は、不動産セクターの経済指標が将来を悲観させるものばかりなのに、「中国の輸出は依然として強靭ぶりを見せており、8月の輸出は前年同時期比で25%の成長を示している」と指摘していることである。この観点からすれば、中国はしばらくは金融緩和と財政政策を駆使して、経済成長を支えられるという見通しが出てきておかしくないというわけだ。

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同誌によれば、前出のゴールドマン・サックスのレポートも、不動産セクターがひどい状態であることは述べているが、輸出がまだまだ好調だという側面も指摘し、「ミクロ経済で奪われ、マクロ経済で得ている」という状態であることを認めている。さらに、中国の投資銀行であるCICC(中金公司)は、今年の残りの数カ月において、中国政府が財政支出をさらに拡大することは可能だと見ているという。

CICCは、中国政府がインフラへの投資を、これから年末にかけての3か月間において、コロナ禍以前の2019年と比較して、同時期比で年率5%くらい拡大することになるだろうと見ている」

もちろん、ジ・エコノミストはこの財政出動が、いまの中国経済の危機を解決してくれると述べているわけではない。それは習近平が望んでいても、うまく成就するかは不確実である。「時間が経過するなかで、中国はありふれたパターンを見せていくことになるだろう。つまり、消費が弱くなるなかで、輸出を拡大していき、そして公共投資を追加する。その政策はどのように呼ばれようと、(不況対策としては)新味のないものであることは間違いない」

もし、今回の不動産会社の破綻が拡大し、不動産バブルが崩壊していくとすれば、この程度の政策では激しいマイナスの連鎖は抑えられない。それは、1990年に始まる日本の不動産バブル崩壊を思い出しても、また、2007年からの米国サブプライム問題の顕在化を振り返っても明らかなことだ。巨大に膨らんだバブルは急激に萎んでいくが、その間に生み出される不良債権や負債が最終的に解消されるまで、経済全体を圧倒的な力で縮小させ、抑え込んでしまうのである。