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東谷暁による「事件」に対する解釈論

南アフリカがオミクロン研究を発表;新変異株の何がどこまで分かったのか

オミクロンについて最初の研究レポートが、12月2日、南アフリカ国立伝染病研究所から発表になった。(データは4日のものを追加した)同研究はこれまで得た新型コロナへの免疫を、オミクロン株は回避する可能性があることを指摘していて、世界中のオミクロン予防対策に強い警告を発するものとなっている。

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南アフリカでの定期調査データからの分析では、ベータ株やデルタ株とは対照的に、オミクロン株はそれまでの感染から得た免疫を回避したエビデンスが示されている」と南アフリカ感染症学者は研究レポートのなかで結論づけている(フィナンシャル・タイム紙12月4日付)。

同研究レポートによれば、調査データに見られる再感染の急上昇は、「南アフリカに見られるオミクロン変異株の発生のタイミングと関係している」。ただし、いまのところワクチンによって得られた免疫に対するオミクロン株の影響や、再感染がより激しい病状をもたらすかについては分かっていないという。

フィナンシャル・タイム紙が掲載している3つのグラフ(下図)を見ると、まず、感染の拡大速度はこれまでの新型コロナウイルスに比べて極めて速いこと、また、検査でポジティブとなる割合も急上昇していること、そして、入院にいたる例については、デルタ株のときより少ないと思われる。(追記11月5日:残念なことに、入院増加が始まっている。最新のグラフは文末を参照

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FT.comより:感染力はきわめて強いが症状は重くないとの説もある


ただし、ベータ株やデルタ株では再感染のリスクが急上昇するということはなかったが、「オミクロン株の場合には2.4倍のリスクを示していると科学者たちは結論づけている」とのことである。また、入院にいたるケースについては地域差があり、ガウテン地域では11月28日現在で788人に達し、これは1週間前の2倍に相当する。

WHOはいまも慎重な姿勢を崩しておらず、先週、オミクロン株は「懸念すべき変異株」であると指摘し、さらに、「ワクチンに対するオミクロン株の影響を知るには、まだ少なくとも2週間はかかる」と述べている。

さて、こうしたオミクロン株の感染拡大が、経済にどのような影響を生み出すかについては、英経済誌ジ・エコノミスト12月4日号が「オミクロン変異株が世界経済にとって何を意味するか」との社説を掲載して、これから生じうる3つの危険について述べている。

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The Economistより:オミクロン株はベータ株やデルタ株とは系列が違う?


第1の危険が、先進諸国による入国禁止や制限が、世界経済の成長を低下させること。第2が、インフレーションを加速してしまう可能性があること、第3が、中国経済の減速をさらにうながすことになる。

第1は、イスラエルや日本のように全面的入国禁止(日本は緩和もしたが)、英国のような南アフリカからの入国制限などは、経済成長を抑制してしまうということで、これは分かりやすい。第2のインフレ加速はちょっと複雑で、一見、インフレ抑制ではないかと思われるが、こうした状況では消費がグッズに向かう傾向があり、サプライチェーンがまだ不全のなかではインフレ効果が生まれるという。消費がグッズではなくサービスに向かうことが、インフレ傾向を抑制するのだと同誌は述べている。

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さて、第3の中国経済の成長をさらに低下させるという指摘は、「ゼロ・コロナ」戦略で切り抜けようとしている中国にとって、感染力が高いオミクロン株は「戦略の転換を強いる」可能性をもっているというわけである。いま、中国は恒大問題の影響を最小限にしようと必死だが、オミクロン株の性質によっては、経済回復にとって最大の脅威になるかもしれない。

【追記11月5日】フィナンシャル・タイムズ紙11月4日付の「遺伝子解読レース:どれくらいかかるのか? 何日?何週間?何カ月?」に付帯のグラフでは、すでに入院増加が加速していることが明らかになっている。上のグラフと比較していただきたい。

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右のグラフを見れば、まさにデルタ株以上の入院増加スピードに相当している。ただし、それがデルタ型と同じ死亡率なのか、緊急態勢ゆえなのか、感染力ゆえなのかは、まだ分からない。