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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ウクライナ、台湾、そして日本(1)北京五輪は「中ロ同盟」のお披露目式だ!

ロシアと中国はウクライナをめぐっての米欧の制裁に対して、急速に接近して事実上の「中ロ同盟」を形成しようとしている。冬季北京オリンピックは、そのお披露目の式典といえるものになりそうだ。この「同盟」はおそらく、台湾をめぐる国際関係にも大きな影響を与えることになる。

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英紙ザ・タイムズは2月3日付の「プーチン習近平ウクライナをめぐる制裁を打ち破る同盟をむすぶ」との記事で次のように述べている。「プーチン大統領習近平主席は明日北京で一連の協定にサインすることになっている。同時に、中国に新規のガス・パイプラインを設置することについての打ち合わせも行うとみられている。欧米の制裁があった場合、中国が経済的なライフラインをロシアに提供することもありうる」

さらに、クレムリン発として、米欧によるNATO拡大についての軋轢について、中国はロシアを公式に支持することになっているという。加えてロシア政府は、モンゴルをへて中国につながる、エネルギー用のシベリア第2パイプラインの建設を進めているとも述べているという。

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また、同紙によれば、プーチンの筆頭外交顧問ユリ・ウシャコフは「プーチン大統領が北京を訪問している間に、ガスについてのいくつかの合意にサインをするだろう」と述べた。ウシャコフは合意の詳細については述べていないが、「中国とロシアとの間のガス開発をめぐる協力が進展することになる」と付け加えたという。

さて、このプーチンの北京訪問は、いうまでもなく冬季北京オリンピックへの表敬ということになっているが、同行する顔ぶれを見れば、とても五輪が目的とは思えない。たとえば、外相セルゲイ・ラブロフ、エネルギー相ニコライ・シュルギノフ、さらには国営石油会社ロスネフト社長イゴール・セチンと、いま「戦略物資」として価値が急騰しているガス・石油の元締めたちなのである。

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いっぽう、ウクライナのほうに目を転じれば、すでに13万人の軍隊が、ウクライナ侵攻に即座に踏み切れる位置に展開している。もちろん、ロシア政府はウクライナに侵攻する計画はないと述べてはいるものの、それを真に受ける専門家はいない。専門家たちが論じているのは、「北京はモスクワに、北京オリンピックが終わる2月20日までは侵攻するのをやめて欲しいと申し入れているだろう」ということである。というのも、2008年の夏季北京オリンピックの最中に、ロシアはグルジア(現・ジョージア)に侵攻したからだ。

すでに、中ロは昨年、日本海で合同演習を行なっており、核兵器や宇宙空間技術についてのコラボレーションも進めているという。先月、習近平プーチンに「国際社会のある国が、中国とロシアの関係について、民主主義と人権をふりかざして、あれこれ介入しているようだ」と語ったという。もう、2人は気分はすっかり「同盟国」のようなのだ。あるいは、「同盟国」をしっかりと演じているのである。

外交問題というのは、どこの国でも、どんな媒体でも人気のないものだが、いまのウクライナ情勢を地球の裏側の出来事として、安穏としているわけにはいかない。なぜなら、エネルギー問題を通じて、日本にも大きな影響を与えるからだ(EUは天然ガスの約40%をロシアに依存しており、いまや、ウクライナ紛争があった場合には、日本も契約しているガスの一部を回せるのかどうかが問題になっている)。さらには、これが大きいが、台湾問題が過熱した場合、それはロシアをも当事者とする、巨大な東アジア危機に発展することが見えてきたからである。

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何回かにわたって投稿する、「ウクライナ、台湾、そして日本」のシリーズは、こうした「紛争地」の構造を改めて見なおしてみたいと思う。日本は紛争地ではないという人がいるかもしれないが、それは日本海が侵攻をある程度阻止しえた時代のことで、いまや兵器テクノロジーの発達で、実は、日本が紛争の最前線になる可能性が高くなっている。第2次世界大戦後、最初は連合国が4カ国で占領する予定だったというのも、戦略的に見れば、このときすでに日本が「紛争地」だったからである。こんな観点も含めて、基本的なことを振り返ってみたい。