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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ウクライナ、台湾、そして日本(8)プーチンを支持して窮地におちいる習近平

世界はウクライナ情勢に引き付けられているが、同時に中国にも目を向けなくてはならない。少し前まで、習近平主席は今年秋の中国共産党大会で、盛大な拍手のなかで異例の第3期目の党総書記に就任するはずだった。しかし、いまや3つの失態が彼に大きな影を投げかけている。ひとつが、ウクライナ戦争を続けるプーチンとの同盟関係であり、ふたつめが、不動産バブル解決の行方が不明瞭なこと、みっつめが、香港での爆発的感染に明らかなゼロコロナ政策の挫折である。

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フィナンシャルタイムズ紙3月4日付は、「ウクライナ戦争の糾弾とコロナ禍の混乱が習近平の栄光に影を投げかけている」を掲載している。同紙は必ずしも習近平が失脚すると言っているわけではないが、ウクライナ戦争を続けるプーチンを「支持」してしまったこと、また、ゼロコロナに固執してきたコロナ対策が破綻しつつあること、さらに、不動産バブル崩壊に対する不徹底な対処も、習近平の圧倒的支配を揺るがすと指摘している。

ウクライナ戦争については、習近平北京オリンピックを口実にやってきたプーチンと会談して、オリンピック後のウクライナ侵攻を是認し、また、大きな逸脱がないかぎり、中国はプーチンの戦争を支持するとの言質を与えてしまったことは確かだろう。ところが、意外なことにウクライナが強い抗戦を展開したことで、ロシアの軍事力だけでなく、習近平に対しても、国際社会は評価を大きく下げることとなった。

また、同紙がみるところ、秋の中国共産党大会では、李克強首相が5~5.5%の経済成長目標を発表すると思われるが、これはパンデミックが始まってからの5.2%よりは多いものの、必ずしも華々しい目標というわけではない。そもそも、中国は今年1月から2月にかけて、不動産売買が前年度に比べて33%ほど下落しており、この不動産バブル崩壊がどう転ぶかも明らかでないのだ。

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ft.comより:感染爆発が続く中国


さらに、香港でのコロナ感染の爆発的拡大は、数値を見るのがいちばん分かりやすいだろう。香港の住民はいまも740万人いるとされるが、その25%がコロナに感染し、1日当たりの感染者数は18万2000人にも達した。ほとんど制御ができなくなったといってよく、これまでのゼロコロナですら「データ隠し」「データ改竄」がひどかったと言われるなか、看板だった完全封じ込め政策が破綻をあらわにしている。これはもはや香港だけのことではなく、これから他の大都市でも生じる事態だと見たほうがよいだろう。

こうした窮状にあるものの、いまの習近平が秋の中国共産党大会で失脚するなどということが起こるとは思えない。しかし、同政権の基盤がかなり不安定になっていることは間違いなく、そうしたときにこそ極端な政策に走るのは、プーチンだけではなく、独裁者にありがちなことだ。もちろん、台湾有事については慎重な対応が不可欠だ。そのことは台湾が一番よく知っている。

どこかの元首相のように「ウクライナNATOに入っていたら侵攻されなかった」などと、まったく見当違いなことをいっている政治家がいるが、今回のウクライナ戦争は、プーチンの誤算など多くの要素があるにしても、ウクライナの政権が不注意にもNATOへの加盟を急いだ、というファクターが大きかったことは、いま改めて書いておくようなことではない。こんな初歩的認識からおかしいわけ知り顔の政治家が、まちがって再び権力をもったりしたら、それこそ日本も新たな窮状に追い込まれるだろう。