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東谷暁による「事件」に対する解釈論

胡錦涛が党大会で排除された理由;習近平はどこまで「たくらんで」いたのか

中国共産党第20回大会は、閉会式に前国家主席胡錦涛が、職員に腕を掴まれて退場する光景が見られた。これはいったい何が起こったのだろうか。大会そのものは圧倒的な習近平独裁体制の確立を見せつけて終わったが、最後のこの「ドラマチック」な光景は、何を意味するのだろうか。

左から、李克強胡錦涛習近平


海外のメディアを中心にいくつか読んだところでは、閉会式は非公開で進められていたが、途中から公開となって世界のマスコミが会場に入った。するとその直後に、大会職員が胡錦涛に近づき腕に手を添えたが、胡錦涛は立ち上がるのを拒んだ。すると複数の職員が何か言いながら胡錦涛を立ち上がらせた。この段階でも表情に生気のない様子は変わらなかった。

彼はまず右隣に座っていた習近平にひとこと何かをいい、さらにその右席の李克強に話しかけ、左手で李の腕を軽く叩くと、職員たちに軽く引っ張られながら会場から去った。この様子は電子版のビデオでも観ることができた。さまざまな憶測が飛び交っているが、開催側からは「胡錦涛は体調が悪かった」という説明になっていない説明がツイートされた。しかし、タイミングといい職員の動作といい、そして胡錦涛の反応といい、かなり不自然なものがあった。以下、ざっと3つほどの可能性を考えてみた。

まるで雛壇のような中国共産党大会会場


(1)中国共産党が述べたように胡錦涛は体調が悪かった
 もちろん、これで納得できるなら、世界のマスコミがあれこれ推測して報道するわけがない。そもそも「体調が悪い」といってもいろいろある。英語では「unwell」とか「not well」と報じられているが、可能性としては胡錦涛認知症を患っていることもありうる。習近平にしてやられて、自分の業績が否定されている胡錦涛にすれば、元気があるわけがないが、その割には表情に生気がなさずぎるように思う。

(2)閉会式の非公開時間において胡錦涛習近平を批判した これまでの中国共産党大会では、権力を握った側が闘争に負けた側をくそみそに批判することはあっても、闘争に負けた側が最後の気力を振り絞って反批判を行なったという例はない。おそらくあったのだろうが、それは無謬の共産党史からは削除されるのが常である。習近平は開会式において、胡錦涛の業績を否定し批判する演説をおこなっていた。これは1)と関係しているが、胡錦涛は閉会式の非公開時間において、自己抑制が効かなくなって、習近平に対する不満をぶちまけた、あるいはぶちまけるまでいかなかったが、声を出して進行を邪魔したのではないか。

(3)習近平は権力を誇示するため前の指導者に恥をかかせた もちろん、党大会は平穏に進行することが何よりの権力誇示になる。しかし、いまだにくすぶる胡錦涛李克強などのエリート派の抵抗は、完全に敗北したことを見せつけるために、敢えて世界のマスコミの前で露骨な胡錦涛の排除劇を仕組んだ。これは可能性としては低いが、習近平は自分の権力を強化(結果としては弱化につながるのだが)するため、中国経済を混乱させ、また、ゼロ・コロナという蛮行に近い医療破壊を行った人間である。そのくらいのことはやるかもしれない。

前任者が生み出した危機を私は克服したと習近平は演説した


この3つは微妙につながっていて、組み合わせが可能であり、効果においては重なってているだろう。中国の政治を矮小化しているという人もいるだろうが、独裁者はつねに政治を矮小化することで自分の権力を巨大化しようとするものなのだ。とりあえず、この3つを考えてみたが、いまのところ私は胡錦涛の衰弱ぶりからみて、認知症の線はあるのではないかと思っている。ただし、認知症である人間を党大会の雛壇に並べているのは習近平一派であり、何かを企むには条件として悪くなかったと思われる。