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東谷暁による「事件」に対する解釈論

イラン大統領が乗ったヘリコプターが発見された;生存の可能性は低いと当局者が発言

AP通信などがイラン大統領が乗ったヘリコプターが発見されたと報じている。同時に、イラン当局者としての話として、「生存可能性は低い」という。今回のレポートもジョン・ギャンブレル記者によるもので、太陽が昇ったことで視界がひらけ、トルコのドローンが山中に墜落したヘリコプターを発見したという。


AP通信が配信した「イランの強硬派大統領は、ヘリコプターが墜落した後も、まだ濃霧の山中に行方不明のままだ」との記事によれば、5月20日の朝、トルコ当局はドローンが山中に火を発見し、「ヘリコプターの残骸と思われるもの」が確認されたと発表した。アゼルバイジャンとイランの国境から南に20キロの斜面で、すでにイランの捜索隊が駆けつけているという。

当然のことながら、この「事故」については、敵対している国家の工作を考えてしまうが、たとえば独紙フランクフルター・アルゲマイネ5月20日付の「イランがライシ大統領の死亡を発表」は、イラン軍の航空機がきわめて劣化していることを挙げている。ものによっては、1979年のイラン革命当時のものを、いまだに使っているというのである。

もちろん、こうした点についての調査も進められることだろうが、そもそも、この時期になぜ大統領と外務大臣が同じヘリコプターにのって移動していたのかも、かなり不自然なことだと私には思える。友好国とはいえ、アゼルバイジャンは外国である。何か工作しようとすれば、イラン国内よりもずっと容易だろう。しかも、3機あったのに大統領と外務大臣が同じヘリコプターに乗り込んでいるという無防備さである。

中小企業ですら、社内で旅行をするさいには、社長と専務はべつのバスに乗るという話を聞いたことがある。事故が起こったさい、会社の業務が滞らなくするためである。ところが、イランという世界を敵に回している国は、「会社」の中枢の人物が仲良く同じバスに乗っていたのである。いくら最高指導者ハメネイ師がいたとしても、これからイランの政治はあれこれ迷走するだろう。こんなふうに普通に考えてみても、今回の墜落事故は奇妙なことが多い。

 

この事件の背景はすでに書いているので、以降は、すでに投稿したものを再掲することにします。また、新しいニュースが入りしだい、追加していくつもりです。

イラン大統領ライシを載せたヘリコプターが「ハードランディング」したとイラン国営放送が報じた。ライシ大統領はイランの東アゼルバイジャンを訪れていたところだったという。イラン国営テレビによれば、事故はテヘランから600キロ北西のアゼルバイジャン国内ジョルファで起こったと報じている。


このヘリコプターにはイランのホセイン・アミラブドラヒアン外務大臣、東アゼルバイジャンの知事、それに何人かの高官も同席していたという。イランのある地方メディアはこの事故について「クラッシュ」という表現を使っているというが、細かいことは分かっていない。ライシ大統領の安否についてもまだ不明のようだとのことである。

フィナンシャルタイムズ紙より:アゼルバイジャンを訪れたライシ大統領


イランのアフマド・バヒディ内務大臣はテレビで、「大統領と同乗者たちはテヘランへの帰途上にあり、悪天候と濃霧によってハードランディングせざるを得なかったものと思われる」と語っている。さらに、ハビディ内務大臣は、硬着陸した地域は険しい地形のため、連絡をつけるのが困難であり、救助隊が現場に到達して新しい情報をもたらすのを待っているところだ」と述べているという。

【追伸】救助隊の動きを、独紙フランクフルター・アルゲマイネ紙5月19日付が少し報じている。イランのタスニム・ニュース・エージェンシーによれば、救助隊たちはイラン北西部のヘリコプターの航跡を追跡調査しているとのことだ。ある情報によると、大統領に付き添っていた人物が軍当局にコンタクトしてきたが、それによれば死者はいないとの話もあったとのことである。もちろん、これは正式に確認された情報ではない。


APによるヘリコプター墜落の位置


【追伸2】英経済紙フィナンシャルタイムズ5月19日電子版も「イラン大統領を乗せたヘリコプターがクラッシュ」を掲載した。同紙もタスニム・ニュース・エージェンシーに依りながら、大統領が乗っているヘリコプターの捜索を続けていると述べている。また、イランに帰国途上のヘリコプターは3機あったが、残りの2機はすでに安全に帰国しているという。同エージェンシーは政府系だということもあってか、大統領と同じヘリコプターに乗っている人物からコンタクトしてきたので、事故はそれほどの被害をださずにすんているかもしれないと示唆しているようだ。

【追伸3】すでにイラン当局はハードランディングからクラッシュと、表現を変えたとの報道も一部にある。米経済紙ウォールストリート紙5月19日付は、「イラン当局は大統領を乗せたヘリコプターはクラッシュしたのち行方不明と発表」との記事を流通させている。この記事は、かなりの部分がこれまでのまとめだが、他の国の反応やこれからの見通しにも触れている。

独紙フランクフルター・アルゲマイネ紙より


まず、イラン国内では最高指導者ハメネイ師のコメントを国営テレビが放送したという。「土曜日の深夜にハメネイ師は事件を知って、アラーが大統領と随行者を帰還させてくれることを祈っているとのことだ。『イラン国民は心配したり悩んだりしないように。国事には何の中断も起こらない』と国営テレビは述べている」。

次にアメリカの反応だが、国家安全保障会議の報道官はアメリカは情報は得ているが、この状況での早急なコメントはしないとのことだ。また、国務省の報道官は「イランで大統領と外務大臣を乗せたヘリコプターがハードランディングした可能性が高い」とだけコメントしているという。

この部分に続けて同紙は「ライシ大統領とアブドラヒアン外務大臣の死亡あるいは行方不明によって、イランの核開発やガザ地区での戦争といった問題への姿勢に大きな変化はないと見られている。ただし、これがひとつの試練であることは間違いない」と続けている。これは同紙の見解なのかアメリカ当局の見解なのか不明だが、取材をしての感触ということだろう。

実は、アメリカとイランは、中東における緊張とイランの核開発の問題について、前週オマンで両国高官による対話が行っていたと同紙は報じている。こうした対話が、かろうじて続いているなかでの今回の事件だが、少なくとも両国のコミュニケーションだけは存続しているというわけである。

もうひとつ、ハマスからのコメントもあったようだ。ハマスの高官は「われわれの心は同胞であるイラン国民とともにある。われわれは全能のアラーがイランの大統領と外務大臣、そして他の同乗者たちに慈しみを賜らんことを祈る」とのステートメントを発表しているとのことである。